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せめて、今夜だけ…
第5章 恋心
「でも、もし婚約を破棄にしたら、せっかくの融資も援助も止められちゃいますし。両親に迷惑はかけたくないし、うちの取引先の中では1番長いお付き合いの企業さんだし」

……早い話が、生贄みたいなもんじゃねぇか。

必死で守って来たものがなくなるとなれば誰だって必死になる。
魚月はただ、両親が守って来たものを守ろうとしてるだけだ。
おどけながら、冗談交じりに話す魚月だが、必死に明るく努めようとしているのがわかる。

「でも、援助してくれてるなら…、もうホステスをする必要はないだろう?纏まった金は手に入ったんだろ?」

俺がそう尋ねると…

「最初は家族を助ける為に始めた仕事ですけど、今はこの仕事が好きなんです。形はどうあれ、誰かを癒す事に変わりはないでしょ?」






―――――――――ドキッ…。








さっきとは違う痛みが全身に走った。
まるで、脳天に雷が落ちたような衝撃だ。







今まで、水商売をしてる女なんてロクなもんじゃないと思っていた。
楽して金を稼ごうとしてる奴だと思ってた。

でも、魚月は…
大事なものを必死で守ろうとしている。
自分を犠牲にしてまで、必死に守ろうとしている。

いや…
みんなどこかで、青筋立てながら必死に頑張ってるんだ。
俺だって、今の会社に入った当初は、怒鳴られながらも必死にしがみつきながら頑張ってたっけな。



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