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せめて、今夜だけ…
第7章 夜明けのコーヒーを
今日は週末だし、もしかしたら魚月が出勤してるかも知れない。
魚月の携帯番号やアドレスも知らない。
店にいないかも知れないし、無駄足になるかも知れないのに。
それに、会ったところで何を話せばいい?
魚月には婚約者がいる。
もうすぐ結婚する女だ。

家庭のある女には手を出さないと決めていたのに。
面倒な事はしたくなかったのに。

あの1回だけだと、自分に言い聞かせていたのに――――…っ。







猛ダッシュで到着したSirèneの扉の前。

「はぁ、はぁ、はぁ…」

あー、久しぶりにこんなに走ったような気がする。
疲れて心臓が破けそうだ。
肌寒い季節とは言え、全力疾走したせいで身体中汗だくだ。
髪もボサボサだし、服もぐちゃぐちゃ。
出来るなら、少しぐらい身形を整えたいところだが…。

「――――――――っ」

今は、そんな事はどうでもいい。
ただ胸の奥にある何か…。
その思いが俺を突き動かしてる。

Sirèneの扉の取手に手をかける。




ドクンッ,ドクンッ,ドクンッ…。




胸が高鳴ってうるさい。
この動悸は、全力疾走しただけのものではない。

店に入るのに、こんなに緊張したことなんてない。


高鳴る鼓動を抑えながら店の扉をゆっくりと押し開いて行く。


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