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郁美の真実 parallel story
第33章 わずかな光
「....そして....これからもきっと嫌なことばかりしかないと思ってた」

「でもね、そうじゃなかったわ」

「初めてきた海は綺麗で、魚釣りも飛び込みも楽しかった....」

「初めて食べたお菓子も美味しかった....」

「....うっ...ううう....うぇぇん....」

早紀は泣きだしてしまった。

男の子は、黙って早紀の頭を撫でてくれた。

「....!」

「おねえちゃん、なんかわからんけどがんばっとうとやね」

「....ありがとう....頭なんてなでられたの初めて....」

「おねえちゃんは、がんばり屋さんやけん、これからみんながなでなでしてくれるバイ」

「うん、ありがとう」

早紀は泣き止むと、陽の光を反射して眩しい海を見ながら決意した。

(まだ死ねない!世界には、まだ私が見たことのない美しい景色や、楽しい出来事が待っている!)

(こんなにかわいくて優しい男の子もいる....きっと、私の世界はもっと広がっていく!)

(負けない!)

「ありがとう!おねえちゃん帰るわ!」

「うん、出口を案内するばい」

男の子は早紀の手を引いて、桟橋の迷路を抜けると、港の入口にとめてあった自転車にまたがった。

「おねえちゃん、また泣きたくなったら来たらいいばい」

「夏はいっつもここにおるけん、また魚釣りしよ!」

「うん、ありがとう!」

「じゃあね!」

「うん」

早紀は男の子と別れてFの別荘へと歩いた。

別荘を出るときとは、まるで表情が変わっていた。

たまたま出会った名も知らぬ男の子が、早紀を死から遠ざけたのだった。

早紀の青春は、ここからさらに過酷になっていくのだったが、早紀はまだ、ここから先の話を私にすることはなかった。
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