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君の光になる。
第5章 化粧
「あの、私、道探しているんですが……多分、美容室だと思うんですけど……安倍さんっていう人がやってるんですが……」
「ああ、もしかして……あ、はい、案内しますので……」
「肘か肩、貸してもらってもいいですか?」と、夕子は左手を女性の肩に置いた。
 夕子の右横を次々とエンジンの音が近づいては遠ざかる。その度、衝撃のある風が夕子の髪をなびかせる。
「最初に来たときより、車通りが多いみたいですね」
「今は歩道なので、大丈夫ですけど、時々自転車が……」
 夕子の後ろでキィっという音がして、チリンチリンとベルの音がした。ビクリとして女性から手を放しそうになる。
 女性の足がスッと止まった。
「……ここです」と、女性が言うとコロンコロンと優しい空洞のある木を叩いたような音に迎えられた。
 ――この音……。
「こんにちは。あの……お客さん……安倍さんに……」
 高い女性の声が呼びかける。
「ああ……ミキちゃん、チャッピィも一緒に偉いわねえ」
 チャッピィの野太い声が短く吠え、クンクウンと喉を鳴らす。
 落ち着いた女性の声がゆっくりとミキに話し掛ける。
 ――この声……どこかで……聞いた事が……。
「ああ……オーナー、今までいたんだけど……」
 ――オーナー? この間は安倍くんって……。
「安倍さん、足くじいちゃったって……」
「ああ、高い場所で足踏み外しちゃって。でも、もう大丈夫そうよ……」
 フワリと石鹸の匂いがした。
 ――あ、あのときの……。
 夕子は後ろに振り向いた。「ありがとう」とミキの方に手を振る。石鹸の匂いに頭を深々と下げた。
「あの……駅で……私、立花夕子です」
「ええ、覚えてますよ。名前も言わずにすみません。高橋麗《たかはしれい》と言います。この美容室のスタッフというか……中に入って……」
 と麗が告げたあと言った。
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