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君の光になる。
第5章 化粧
 夕子は安倍の美容室がある駅に降り立った。土や碧い草木の匂いを胸いっぱいに吸い込んだ。
 そう遠くはないはずだ。夕子は安倍と歩いた道を思い出しながら行く手を探りながら歩を進めた。
 何かの息づかいが聞こえた。それは早足で歩いたときのようにハアハアという少し苦しそうに聞こえた。
「ほら、チャッピィ、ダメ、そっちに行ったら……」
 若い女性の声がした。少し息が上がっている。そのあとにパタパタを靴の音が引きずられるように夕子に近づく。
 夕子は立ち止まった。
 目の前で短く苦しそうな息づかいが止まった。
 ワン。野太い声が少し控えめに吠える。
 ――犬……。それも大きな……。
「ああ、ゴメンなさい。家の子が歩くジャマをしちゃって……」
 若い女性の申し訳なさそうな声が控えめに言った。その近くで、浅く速い犬の息づかいがある。
「あ、大丈夫ですよ。お散歩ですか?」
「ええ、いつもは朝にお散歩するんですが、今日は少し遅くなっちゃって……大変なんです。散歩に連れてけ、ってまとわり付くので……」と言うと女性は小さく息をついた。
「私、撫でてもいいですか?」
「あ、いいですよ。撫でて上げてください」
 温かい手が夕子の左側の手首を持つ。スッと手のひらを降ろすと、ふかふかの絨毯のような感じが手のひらにあった。それは微動だにしなかった。
「賢い子ですね? ゴールデンですか?」
「……ええ、よく分かりますね?」
 女性の声が高くなった。
「私が小さいとき、飼ってたので。ゴールデン……」
 ぬいぐるみのような手触りがふっと上に動いた。犬の顔が自分を見上げているようだ。
「ああ、そう……賢いのね、あなた……」
「お姉さん、チャッピィとお話してるみたい」
 その横でクスクス笑う女性の声が聞こえる。
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