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君の光になる。
第6章 君の光に
 次の月曜日、いつもの駅で安倍と会った。ラブレターのことが頭に蘇る。胸が高鳴り、言葉が出なかった。

 気のせいか、安倍の口数も少ない。帰る途中に、二人はいつもの駅から十分くらいの駅で電車を降りた。

「……この間はすみません。少し留守していて……」

「いいえ、私が勝手に……。それに麗さんによくしてもらって、ホントに助かりました」
 秋の空には珍しく暖かな風が夕子の髪を揺らした。少し風が強い。

「お天気……。台風でも来そうな風ですよね?」

「はい、今夜は少し暖かいので降るかも知れませんね。でも、今は星が空いっぱいです」

「星……キレイですか?」

「……ええ、とても……空気も澄んでいて気持ちのいい夜です」

 脂の香ばしい匂いや甘い菓子のような匂いに迎えられた。安倍と腕を組んでいた。商店街の割に雑踏は感じられなかった。

 安倍が大きく深呼吸した。

 夕子も大きく息を吸い込む。昼間とは違い透明な空気が胸いっぱいに満たされる。その中に安倍のトニックシャンプーの匂いを感じた。

「安倍さん、ハガキ……」

「ああ、届きましたか? 少し心配だったんです。届くか、どうか……」

「点字……」

「ああ、通販でセットを買って、それで……間違っていませんでしたか? 完全に独学なので……」
 夕子と組んだ逆の手が彼の頭の方に動き、ポリポリと掻いているのが分かる。

「ふふふ、安倍さん、小学生みたいです。私とても嬉しかったです」
 夕子は空を見上げた。目が潤んでくる。

「ああ、もうそろそろ帰らないと……」
 安倍が呟く。

 指先で指触時計を撫でた。午後九時四十分。

 ――帰りたくない……帰りたくない、って言わないと……。後悔……後悔するのはイヤ……。

「……安倍さん……もしよければ……私、もう少し一緒にいたいです。安倍さんと……」
 胸が高鳴った。

 安倍の腕に強く夕子を引き寄せられる。トニックシャンプーの匂いが近くにあった。

「いましょう。今夜は一緒に……」
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