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君の光になる。
第1章 序章
 夕子はその匂いを探った。人の肘だ。身体が浮き上がるように足が進んだ。身体が引っ張られるが恐怖心はなかった。

「荒っぽくてすみませんでした。ここはあなたのいらっしゃった列の最後尾です」
 夕子を引く力が弱くなった。生温い風が夕子の髪を揺らした。油や埃の混じった空気の匂いが夕子の鼻腔に広がる。

「あ……今、雨が……降りそう……ですか?」

「いや……まだ、陽が照ってます……」

「あっ、そうなんですね」
 夕子は満面の笑みをしてみせた。

 蒸すような熱気で自然に汗ばむ。

「あ、それでは僕は……」
 コツコツと踵のある靴の音が雑踏の中に徐々に遠ざかる。爽やかなトニックシャンプーの匂いが遠くなった。

 頬に感じる風が強くなる。

 「一番線に列車が入ります……」
 キューンと軽い電子音のあと、プシューという息を吐き出す。列車が滑り込む音だ。雑踏がゴソゴソと動き出す。ナイロン素材のような匂いがするその中に、夕子も押し込まれるように雪崩れ込んだ。
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