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君の光になる。
第1章 序章
トニックシャンプーの匂いの男性に合ってから一ヶ月が経とうとしていた。
シャーシャーと、どこかから蝉の声が聞こえる。風はほとんど感じなかった。白杖を持つ右の手の甲がジリジリと熱い。ボンヤリと見える光が眩しい。夕子は毎日のようにあの一番線のホームで待った。雑踏の中で。トニックシャンプーの匂いを待つ。
「一番線の電車が発車します……」このアナウンスを合図にホームを降りることにしていた。
――さあ、帰ろう……。
点字ブロックを探り方向を確かめる。手のひらにスーツと感じるのは誘導ブロックだ。
肩先に誰かの肩が触れる。四方から雑踏を感じた。白杖の先がトンと滑る感じがした。足下でコロンという音がした。
――あっ……。
目の前が真っ暗になったような感じがした。夕子は膝をついて手で探る。熱気で熱くなった固いコンクリートを感じた。靴の音が大きくなった。
「ほら、こんな所でしゃがむなよ。おいっ」
コロンと言う音が遠ざかった。
「ああ、すみません。すみません……」
夕子は何度も頭を下げた。視力が弱い者にとって白杖はその者の目だ。目の前が真っ暗になった。
トニックシャンプーの匂いだ。
シャーシャーと、どこかから蝉の声が聞こえる。風はほとんど感じなかった。白杖を持つ右の手の甲がジリジリと熱い。ボンヤリと見える光が眩しい。夕子は毎日のようにあの一番線のホームで待った。雑踏の中で。トニックシャンプーの匂いを待つ。
「一番線の電車が発車します……」このアナウンスを合図にホームを降りることにしていた。
――さあ、帰ろう……。
点字ブロックを探り方向を確かめる。手のひらにスーツと感じるのは誘導ブロックだ。
肩先に誰かの肩が触れる。四方から雑踏を感じた。白杖の先がトンと滑る感じがした。足下でコロンという音がした。
――あっ……。
目の前が真っ暗になったような感じがした。夕子は膝をついて手で探る。熱気で熱くなった固いコンクリートを感じた。靴の音が大きくなった。
「ほら、こんな所でしゃがむなよ。おいっ」
コロンと言う音が遠ざかった。
「ああ、すみません。すみません……」
夕子は何度も頭を下げた。視力が弱い者にとって白杖はその者の目だ。目の前が真っ暗になった。
トニックシャンプーの匂いだ。