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君の光になる。
第1章 序章
「あの……」と、肩を軽く叩かれた。

「僕に掴まって……」
 聞き覚えのある声だ。すうっと身体が浮き上がる。確かにこの駅で助けてもらった男性だ。男性に引かれ歩を進める。

「あ……以前ここで……ありがとうございました」

「えっ、はい……僕が分かるんですか? あ、僕の方こそ……」

「え……」

「あなたが、雨が降るかも、っておっしゃったのでコンビニで傘を買ったんですが……夕立が降り出して……」

「……よかったです。お役に立てて……あの……足、大丈夫ですか?」

「え……? 分かるんですか?」

「この前に比べて肘が上がっているような……」

 少し上がった男性の肘は、歩を進める度に上下に揺れていた。

「ああ、実は、この間右足、捻挫しちゃいまして……」
 男性の声が恥ずかしそうに笑った。

「ね、捻挫? 大丈夫ですか? ご、ゴメンなさい。もう、私……」
 夕子の手のひらに白杖のストラップが触れた。

「ここから真っ直ぐ歩いて、五、六歩の所にエスカレーターがあります」

「あ、ありがとうございました」

「あの、お、名前……」
 男性の声が小さくなった。

「立花……立花夕子です。あ、はじめまして……」
 夕子が笑いながら戯《おど》けてみせた。

「僕は安倍光《あべひかる》です。あ、あの……立花さん……また会っていただけますか?」
 安倍の恥ずかしそうにな声がしていた。

「会って……えっ、あ、是非」
 シャーシャーという蝉の鳴き声のボリュームが上がった。
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