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置き薬屋と人妻。
第2章 ときめき
「失礼します……」
 置き薬屋の男は大きなアタッシェケースを手に玄関に入った。年齢は三十くらいだろうか。彼は背が高く、落ち着いた雰囲気の彼はインターフォンで見た姿とは全く違っていた。気持ちよく整えられた短髪に清涼感を感じた。
 ――イヌ顔がカワイイ……。甘えられたらキュンときちゃうわ。
 彼は玄関で膝を折って、薬の箱を銀色のスティックで軽く叩いて確認した。玄関にトントントンと軽い紙箱の音が響く。
「あ、あの……前の担当の……えっと……」
  ――確か薬箱の……。
 望結の目が薬箱の蓋裏を追う。
「ああ、はい……配置替えで……」
 彼はスマートフォンを大きくしたようなプリンタがチチチと音を立てながら、細長い紙を吐き出す。
「はい、……っと安達さん……今回はご使用がありませんので……」
 薬屋の男がレシートを手渡して、少しはにかんだイヌ顔が白い八重歯を見せる。
 ――きゃ、カワイイわ。名前なんて言うのかしら。
「あ、あの……」
「そうだ。あの安達さん……これ……キャンペーン中なので……気になる者があれば……」
 彼はアタッシェケースの中からクリアフォルダを取り出して、望結に手渡した。
「ああ、はい……」
 ――ああ、名前、聞けなかったよ。
 薬屋の男は玄関を出た。大きなアタッシェケースを手に……。
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