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最後の恋に花束を
第5章 大学一年の春

『 …着いたよ。』
肩を抱かれ、まるで強引に…足早に引き寄せられたその先に一軒のアパートがあった。アパートの一階の角部屋の扉の前で遙は私の肩から腕を離すと、ポケットからキーケースを取り出し、部屋の鍵をガチャリと開けた。
『 … さ。どうぞ。』
「 お… お邪魔します… 」
彼は丁寧にレディファーストをしてくれる。私は少し緊張しながらも、彼の家の玄関へと一歩を踏み入れた。
「 き… 綺麗にしてるんだね 」
大学生の一人暮らし…狭いながらも整頓されているからか、窮屈には感じない玄関。靴を脱ぎ玄関から続く廊下には、ドアが三つとキッチンスペースがあった。
『 だろ〜?さ、上がって。』
私の言葉に満足げにそう答えた彼。玄関そばで歩みを止めた私を追い抜き、正面の扉を開ける。
遠慮がちにもその扉をくぐると、大きなベッドにローテーブル、テレビやパソコン、すぐ側にはカメラのコレクションが置かれている。こちらもとても整理整頓され、男子学生の部屋には思えないほどだった。
『 んー… とりあえず音楽でも流すか。』
そう言って彼はパソコンをいじると、両脇に置かれていたスピーカーから綺麗なピアノの音色が流れた。
「 え、なんか意外。ハルくんてこういうの聞くんだ… 」
『 なに?パンクロックとかうるさい方がよかった?』
上着を脱ぎながら、彼はいつも通りの笑顔を私に向ける。
その笑顔に、緊張気味の私の心が緩んだ時だ。
『 なんか… 緊張するわ。』
いつもの彼の笑顔がどことなく歪み、けれど嫌な表情では無い、嬉しさか…恥ずかしさか… 複雑な感情が入り混じったような顔を私に向け、彼らしく無い言葉を発した。

