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最後の恋に花束を
第5章 大学一年の春

「 ねぇ… 起きてる?」

『 … ん 』

暗闇の中薄っすらと視界に入る遙の姿に目を向けながら、声をかける。カーテンの隙間からは月の光が溢れていた。

モゾッと遙の身体が動く。すると彼は薄く瞼を開けて、私の方を見た。


「 そこ… 寒くない?」

『 … ん 』

「 い… 痛くない?」

『 … ん 』


たったそのやり取りだけ。それだけなのに、私の心臓はトクトクと大きく脈打つ。


「 こっちで… 寝る?」


その言葉に、やらしい意味なんて無くて。単に、ここまで優しくしてくれている遙に申し訳ない気持ちがいっぱいで。

意を決して出した言葉に、少しだけ遙の頬が緩んだのがわかった。


『 … いいよ、俺は。こっちで 』


その言葉に、染み染みと彼の優しさを感じる。
きっと、こんな状況に耐えられない男性は世の中に沢山いる。けれど、彼は違った。私のことを女として見ていないのかもしれない。それはそれで悲しい…けれど、彼への信頼は私にとって誰よりも強かった。


「 … だめ、やっぱダメ。風邪ひいちゃうよ 」


私は思わず布団から起き上がると、床に寝ている遙の腕を取った。


『 … そんなに一緒に寝たいの?』


少し、少しだけ笑みをこぼしながら彼はそう呟く。カーテンから溢れる月の光にキラキラと照らされる遙の澄んだ瞳が、私の瞳に映る。その瞬間私は、小さく息を飲んだ。

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