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最後の恋に花束を
第6章 大学一年の冬

「 ねぇ… 今日どこ泊まるの?」
街を散策するように歩いている遙の斜め後ろで、彼に声をかける。マフラーを巻き直すためマフラーを緩めると、ツンとした冷たい空気が首元にかかった。
『 んー… 行ってみたいとこあるんだよ 』
「 んん…? どこ? 」
ネオンの光がキラキラと輝く中、私達は少しの距離を保ったまま歩く。息は白く、マフラーに顔を埋めた。
『 こういうとこは、ダメ?』
彼は立ち止まって私の方を振り返り、首を傾げる。建物を見上げると " Hotel " と書かれているが、とても煌びやかな造りで大きな看板もある。そう、そこはラブホテルだった。
「 えっ、本気で言ってる?」
思わぬ場所に、私は彼とその建物を交互に見る。
彼は動揺している様子もなく平然としていた。
『 本気。てか俺行ったことないから 』
『 … なんかさ、面白そうじゃね?』
そう言う彼は、まるで新発売のゲームを楽しみに待っているような笑みを溢している。私もラブホテルに入ったことはなかったが、彼とここに立ち入るのは良い気がしない。
「 そんな… 面白いところじゃないでしょ… 」
『 なに、可奈は初めてじゃ無いの?』
「 いやいや… 初めてだけどさ… 」
『 んなら、いいじゃん? 』
簡単そうに彼は言う。けれど、私は乗り気にはなれなかった。以前、遙の家に泊めてもらった時と今の状況とは違っていたから…
『 野宿するより、いいっしょ 』
トボけた顔をしながら彼は右手を伸ばすと、私の腕をぎゅっと掴んだ。
「 そりゃ… 野宿するよりかはね… 」
『 おし。じゃあ決定な。』
掴まれた腕が、グイッと引っ張られる。
その瞬間、足が前に出て彼の方へと歩みを進める。
( あぁ… 私は本当に誘惑に弱い女だ… )
そう思い、ハァ…と小さく溜息を吐く。
引っ張られた腕に身体も付いて行くかのように、私はそのホテルへと足を踏み入れた。

