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君に熱視線゚
第53章 恋の修羅場ラバンバ!
苗は懐かしそうにそれを手にして眺める。
夏休みの度に帰郷して悟と過ごした日々──
苗はゆっくりとその時を思い返していた。
「たしか、あそこにも置いた覚えがあるだよっ…」
はしゃいだ苗は、模型とにらめっこをすると「あった!」そう言って手を伸ばした。
顔をマジックで描いたドングリが、二個。駅の模型のベンチにちょこんと置いてある。
二個のドングリには片仮名で“ナ”と“サ”の文字が書かれていた。
それは毎年駅のホームで見送りをする悟と苗の代わりだった。
手にしたそれを暫く眺め、苗はまたベンチに戻す。
「だめだよ苗」
「ん?」
悟は苗の背後から腕を伸ばした。
少し離れ気味になった二つのドングリをぴったりと寄り添わせ、悟は置き直す。
「……ちゃんと元に戻さないと……」
そう言って悟は振り返った苗を意味ありげに見つめた。
ボブの真っ黒で艶やかな髪。昔はそれをヘルメットみたいで嫌だと言っていた苗。
でも悟はそれを笑いながらもはっきりとカワイイと褒めてあげていた。
面白くて可愛くて
一緒に居るのが当たり前だと思い込んでいた幼い日──
苗が親の元に帰ると知って人知れず倉庫で隠れて泣きじゃくった──
大人になったら連れ戻すはずだった。
しっかりとした大人になったら──
苗をお嫁さんにもらうつもりでずっと計画を立てていた……
はずだったのに──
悟は苗を見つめ、微かに唇を噛み締める。
「苗……もう手遅れなんて…言わないよね……」
「……っ…」
その言葉に苗の大きなくりくりの瞳が悟を見つめ返した。とても近い距離。真後ろに立った悟の腰が苗に覆い被さるように少しだけ前に屈んだ──。