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君に熱視線゚
第52章 君に熱視線゚〜愛の鈍行列車〜

「なっ…なっ…ちょ…っ…兄さ…っ…」

他に誰も居ない空間で、蒼くなりながらもツヤピかなフローリングをスケートリンクの如く滑っていく。靴下を履いているせいか踵のみでの動きはとても滑らかだ。

脇を片手で晴樹に抱えられ、後ろ向きのまま寝室に到着した苗はそのままベッドに仰向けに倒されていた。

晴樹は狼狽える苗に構わず馬乗りで覆い被さる。

「……っ…」


軋むベッド。柔らかな羽毛布団。

そこに沈むようにゆっくりと苗に近付いた晴樹の品のいい鼻先。そして長い睫毛。

苗は晴樹のその美形顔につい目を止めて釘付けになっていた。

焦りながらもくりくり目で見つめる苗の表情が何故かほんのりと赤くなっていく──

晴樹もそれに気付き思わず閉じかけていた瞳を見開いて動きを止めた。

「──……」

晴樹の喉元がゴクリと波打ちながらも瞳が熱を持ち始める。

思わぬ所で苗は不意打ちをかます。

いつもそうだ──

ついさっきまで悟に対しての苛立ちと腹いせの感情に捕らわれていた筈だったのに、今は下から見つめてくる苗の表情に晴樹の鼓動は急に早くなっていく。

いつも肝心な所で笑わせてくれる苗。
そんな苗があろうことか、このタイミングで思いきり恋する女の子の顔をして晴樹に向けてくる。
そんな苗に見つめられて晴樹がドキドキしない筈はなかった。

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