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エメラルドの鎮魂歌
第6章 招かれざる訪問者
…それから10日ばかり過ぎた中秋の朝のことであった。
瑞葉は朝食の席で八雲から、意外な事実を告げられた。
「え?深津先生が引退されるの?」
瑞葉はハーブのオムレツを切り分けるナイフを止め、八雲を見上げた。
「はい。かねてよりの持病の腰痛が悪化されたとのことで、信州の冬は堪えるようになられたとか…。
…奥様と故郷の伊豆に帰られるそうですよ」
深津は、軽井沢においての篠宮家のかかりつけ医師であった。
北軽井沢で診療所を開く傍ら、祖父の代から篠宮家の人々の健康を管理していた。
瑞葉が軽井沢に移り住むようになってからは、深津が週に一、二度別荘を訪れきめ細やかな診察や検査をしてくれていた医師だった。
穏やかで見立ても確かな医師だったので、瑞葉も信頼して懐いていたが、いかんせん七十を超えた老齢だった為、惜しまれつつ引退ということになったのだ。
「…そう…。優しい良い先生だったのに残念だな…」
瑞葉は名残惜しげに息を吐いた。
温かなクリームティーをカップに注ぎながら、八雲は続けた。
「…それで後任の医師ですが、深津先生が大学で教鞭を取られていた頃の生徒さんで、東京の大学病院で勤務医をされていた方だそうです。
…何でも信州の自然に憧れて、こちらでの勤務を希望されていらしたとか…。
深津先生の診療所もそのまま引き継がれるそうです。
その方は大変優秀な医師なので、瑞葉様にはどうかご懸念なさらないようにと、おっしゃっておいででした。
…今日の午後にご挨拶に見えると、昨日ご連絡がありました」
「…そう…」
人見知りの激しい瑞葉にとって、初対面の人に会うのはやや憂鬱な事柄であった。
…けれど、いつまでもそんな子どもっぽい我儘を言ってはいられない…。
瑞葉はそう自分に言い聞かせると、八雲に微笑んだ。
「分かった。きちんとご挨拶するよ。これから僕がお世話になるドクターだものね…」
瑞葉は朝食の席で八雲から、意外な事実を告げられた。
「え?深津先生が引退されるの?」
瑞葉はハーブのオムレツを切り分けるナイフを止め、八雲を見上げた。
「はい。かねてよりの持病の腰痛が悪化されたとのことで、信州の冬は堪えるようになられたとか…。
…奥様と故郷の伊豆に帰られるそうですよ」
深津は、軽井沢においての篠宮家のかかりつけ医師であった。
北軽井沢で診療所を開く傍ら、祖父の代から篠宮家の人々の健康を管理していた。
瑞葉が軽井沢に移り住むようになってからは、深津が週に一、二度別荘を訪れきめ細やかな診察や検査をしてくれていた医師だった。
穏やかで見立ても確かな医師だったので、瑞葉も信頼して懐いていたが、いかんせん七十を超えた老齢だった為、惜しまれつつ引退ということになったのだ。
「…そう…。優しい良い先生だったのに残念だな…」
瑞葉は名残惜しげに息を吐いた。
温かなクリームティーをカップに注ぎながら、八雲は続けた。
「…それで後任の医師ですが、深津先生が大学で教鞭を取られていた頃の生徒さんで、東京の大学病院で勤務医をされていた方だそうです。
…何でも信州の自然に憧れて、こちらでの勤務を希望されていらしたとか…。
深津先生の診療所もそのまま引き継がれるそうです。
その方は大変優秀な医師なので、瑞葉様にはどうかご懸念なさらないようにと、おっしゃっておいででした。
…今日の午後にご挨拶に見えると、昨日ご連絡がありました」
「…そう…」
人見知りの激しい瑞葉にとって、初対面の人に会うのはやや憂鬱な事柄であった。
…けれど、いつまでもそんな子どもっぽい我儘を言ってはいられない…。
瑞葉はそう自分に言い聞かせると、八雲に微笑んだ。
「分かった。きちんとご挨拶するよ。これから僕がお世話になるドクターだものね…」