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エメラルドの鎮魂歌
第6章 招かれざる訪問者
瑞葉と八雲の情事を覗き見した翌日、有島は何食わぬ貌で再び屋敷を訪れた。
いつもの診察ののち、八雲が部屋を辞すると待ちかねたように瑞葉の足元に跪き、その手を握り締めた。
そうして、夢見るようなうっとりとした口調で語り始める。
「…昨夜の貴方は本当に美しかった…。まるで穢れのない高級娼婦のように嫋やかで淫らで…私は…あんなにも激しく欲情したことはありません…。
自宅に帰って、貴方を想って自らを慰めましたよ…」
震える白い手に愛おしげに唇を付ける。
その言葉に瑞葉は鳥肌を立て、身を攀じる。
「…いや…もう…お願いだから…許して…」
「…そんなことを仰らないでください…。
貴方は、私の気持ちなど少しもお判りではないのですね…。
恋しい貴方が他の男の胸に抱かれている様を見て…私がどれほど嫉妬の業火に身を焼かれる思いでいるのか…!
貴方が彼の腕の中で快楽に喘げば喘ぐほど、私の心は苦しさに悶え打つのですよ…」
…何て身勝手な言い分だ…と瑞葉は唇を噛み締める。
悔しさと恐怖から、涙が止めどなく溢れ落ちる。
瑞葉の涙を見て、有島は世にも哀しげな貌をした。
「…泣かないでください…。
私は貴方を悲しませたい訳ではないのです。
本当は…貴方に笑いかけてほしい…。
…けれど、それは見果てぬ夢です。
貴方は私を決して愛しはしないでしょう…。
それならば、私は貴方に憎まれることを選びます」
「…そんな…!」
…この男は…狂っている…。
絶望的な恐怖が瑞葉を襲った。
清潔な唇を歪めて、有島は淡々と答える。
「愛して貰えないのなら、いっそ憎んで欲しいのです。
…無関心より、よほどましです…」
有島は乾いた笑いを立てた。
…そうして、ゆっくりと立ち上がると身なりを整え、ドクターズバッグを持ち上げ、にっこりと笑った。
「…今宵、またまいります。
…裏口の鍵は開けておいてください」
いつもの診察ののち、八雲が部屋を辞すると待ちかねたように瑞葉の足元に跪き、その手を握り締めた。
そうして、夢見るようなうっとりとした口調で語り始める。
「…昨夜の貴方は本当に美しかった…。まるで穢れのない高級娼婦のように嫋やかで淫らで…私は…あんなにも激しく欲情したことはありません…。
自宅に帰って、貴方を想って自らを慰めましたよ…」
震える白い手に愛おしげに唇を付ける。
その言葉に瑞葉は鳥肌を立て、身を攀じる。
「…いや…もう…お願いだから…許して…」
「…そんなことを仰らないでください…。
貴方は、私の気持ちなど少しもお判りではないのですね…。
恋しい貴方が他の男の胸に抱かれている様を見て…私がどれほど嫉妬の業火に身を焼かれる思いでいるのか…!
貴方が彼の腕の中で快楽に喘げば喘ぐほど、私の心は苦しさに悶え打つのですよ…」
…何て身勝手な言い分だ…と瑞葉は唇を噛み締める。
悔しさと恐怖から、涙が止めどなく溢れ落ちる。
瑞葉の涙を見て、有島は世にも哀しげな貌をした。
「…泣かないでください…。
私は貴方を悲しませたい訳ではないのです。
本当は…貴方に笑いかけてほしい…。
…けれど、それは見果てぬ夢です。
貴方は私を決して愛しはしないでしょう…。
それならば、私は貴方に憎まれることを選びます」
「…そんな…!」
…この男は…狂っている…。
絶望的な恐怖が瑞葉を襲った。
清潔な唇を歪めて、有島は淡々と答える。
「愛して貰えないのなら、いっそ憎んで欲しいのです。
…無関心より、よほどましです…」
有島は乾いた笑いを立てた。
…そうして、ゆっくりと立ち上がると身なりを整え、ドクターズバッグを持ち上げ、にっこりと笑った。
「…今宵、またまいります。
…裏口の鍵は開けておいてください」