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エメラルドの鎮魂歌
第6章 招かれざる訪問者
視界が効かないほどの濃い霧が発生し始めていた。
「…八雲…そ、それ…あ、有島先生を…どうするの…?」
血塗れのペルシャ絨毯に包まれた有島の死体をことも無げに肩に背負い、歩き出した八雲に瑞葉は声をかける。
八雲は振り返り、優しく微笑った。
「瑞葉様は屋敷にいらしてください。
冷えてまいりましたから、お風邪を召されるといけません」
…瑞葉の身体の心配しかしていない…。
全く平常時の八雲だ。
その肩に背負っているのは、自分が射殺した死体だというのに…。
瑞葉は首を振り、八雲の後を小走りで付いていく。
薄い履き物しか履いてこなかった為、硬い砂利が足裏にめり込み、転びそうになる。
濃い霧の水分が髪に、身体に…しっとりと絡みつく。
「…ひ、一人にしないで…。
ねえ…有島先生をどうするの?警察に…知らせなくていいの?」
…ひとを一人殺したのだ。
理由はどうあれ、八雲が殺人を犯した事に違いはない。
「警察には知らせません」
前を向いたまま短く答え、そのまま早足で庭を横切る。
「でも…。僕が乱暴されそうになって…それで八雲は先生を殺したんだから…正当防衛だよ…」
八雲が足を止め、振り返った。
美しい瑠璃色の瞳には、笑みの欠片も残ってはいなかった。
ぞっとするような深い深い蒼だ。
「警察が入れば、ありとあらゆることが暴露されます。
…貴方の脚のことも…私との関係も…。
何より…私が捕らえられたら、貴方と離れ離れになります」
「嫌だ!そんなの…絶対に嫌だ!」
間髪を入れずに叫ぶ。
「八雲がいなくなるなんて…そんなこと…!」
すぐさま、八雲の美しい手が瑞葉の蜂蜜色の髪を優しく撫でる。
「大丈夫です。私は貴方のお側を離れません」
その手を強く握り締める。
「でも…このままでは…」
八雲の端麗な美貌は少しも曇ることも歪むこともなく、ただ真っ直ぐに瑞葉を見つめた。
そうして、小さな子どもに諭すように告げた。
「…貴方は何もご心配にならなくて良いのです。
屋敷でお待ちください」
「…八雲…そ、それ…あ、有島先生を…どうするの…?」
血塗れのペルシャ絨毯に包まれた有島の死体をことも無げに肩に背負い、歩き出した八雲に瑞葉は声をかける。
八雲は振り返り、優しく微笑った。
「瑞葉様は屋敷にいらしてください。
冷えてまいりましたから、お風邪を召されるといけません」
…瑞葉の身体の心配しかしていない…。
全く平常時の八雲だ。
その肩に背負っているのは、自分が射殺した死体だというのに…。
瑞葉は首を振り、八雲の後を小走りで付いていく。
薄い履き物しか履いてこなかった為、硬い砂利が足裏にめり込み、転びそうになる。
濃い霧の水分が髪に、身体に…しっとりと絡みつく。
「…ひ、一人にしないで…。
ねえ…有島先生をどうするの?警察に…知らせなくていいの?」
…ひとを一人殺したのだ。
理由はどうあれ、八雲が殺人を犯した事に違いはない。
「警察には知らせません」
前を向いたまま短く答え、そのまま早足で庭を横切る。
「でも…。僕が乱暴されそうになって…それで八雲は先生を殺したんだから…正当防衛だよ…」
八雲が足を止め、振り返った。
美しい瑠璃色の瞳には、笑みの欠片も残ってはいなかった。
ぞっとするような深い深い蒼だ。
「警察が入れば、ありとあらゆることが暴露されます。
…貴方の脚のことも…私との関係も…。
何より…私が捕らえられたら、貴方と離れ離れになります」
「嫌だ!そんなの…絶対に嫌だ!」
間髪を入れずに叫ぶ。
「八雲がいなくなるなんて…そんなこと…!」
すぐさま、八雲の美しい手が瑞葉の蜂蜜色の髪を優しく撫でる。
「大丈夫です。私は貴方のお側を離れません」
その手を強く握り締める。
「でも…このままでは…」
八雲の端麗な美貌は少しも曇ることも歪むこともなく、ただ真っ直ぐに瑞葉を見つめた。
そうして、小さな子どもに諭すように告げた。
「…貴方は何もご心配にならなくて良いのです。
屋敷でお待ちください」