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エメラルドの鎮魂歌
第8章 エメラルドの鎮魂歌 〜終わりの序曲〜
「…だから八雲が気に病むことは何もないんだ。
八雲は兄様を幸せにすることだけを考えて…」
和葉の優しい言葉に、八雲は強く手を握りしめた。
「…兄様はお前がいないと生きてはいけないからね。
僕は日本を守るために戦うけど、八雲は兄様を守ってあげて、最後まで…」
「…和葉様…!」
和葉は、可笑しそうに笑った。
「なんて貌をしているんだ。僕は軍艦に乗るのをわくわくしているんだから。
…お前のその瞳のように深い瑠璃色の海を、早く見てみたい。
大きな大きな軍艦に乗るのが、僕の小さな頃からの夢だったんだ。
…それに…僕の好きなひとは飛行機乗りなんだ。
彼が乗る偵察機に見送られて、大海原を進むんだ…。
何も怖くないよ」

八雲は黙って和葉を引き寄せ、抱きしめた。
「…八雲…?」
「和葉様、どうかご無事でお帰りください。
それが、八雲からのただ一つのお願いでございます」
淡々とした…感情を押し殺した声だった。
…けれど、和葉を抱きしめる腕の力は息を呑むほどに強かった。

和葉は男の胸の中で小さく微笑った。
「お前にお願いされなくたって、ちゃんと帰るよ。
…僕の恋人は心配性なんだから」

二人は貌を見合わせ、旧知の友人のように笑った。
…ヨハン・シュトラウスはまだ、続いていた。





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