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エメラルドの鎮魂歌
第10章 エメラルドの鎮魂歌 〜二つの月〜
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慌てて、藍を突き放そうとするのに、彼は全くお構いなしだ。
瑞葉を抱き寄せたまま、悪戯めいた口調で話しかける。
「何?史郎さん。俺、今瑞葉を口説いているんだけど」
青山はやれやれと言った風に肩を聳やかした。
「…瑞葉くんが困っているよ。ほどほどにしなさい」
優しく余裕に満ちた笑顔を瑞葉に向け、向かい側のソファに腰掛ける。
「済まないね、瑞葉くん。どうも藍を甘やかしすぎて躾に失敗したみたいだ。
この綺麗な大型犬は、君が好きで好きで堪らないようだよ」
「犬扱いするなよな」
仏頂面で抗議するのを澄ました顔でやり過ごし、青山は長い脚を優雅に組んだ。
「…早速本題なのだが、私たちが来月パリに渡ることはもう話したね?」
瑞葉は頷く。
「そこでだ。…やはり君も一緒にフランスに渡らないか?」
「…え?」
瑞葉は長い睫毛を瞬かせ、エメラルドの瞳を見張った。
「先日話した時とは、残念ながら状況が変わってしまったしね」
…そうだ。あの日、自分は八雲と生きる決意を新たにして、それを彼に告げに行ったのだ…。
そうしたら…。
哀しみの翳が美しい面に浮かぶのを、藍は痛ましく見守る。
「…私は君を日本に残して置く気にはなれないのだよ。
これからどうするか…とりあえずパリでじっくりと考えてみないか?」
青山の提案に藍が深く頷き、瑞葉の手を握る。
「そうしようよ。パリで心機一転、新しい人生を生き直すんだよ」
「幸いというか、君の容姿は欧州向きだ。
あちらでは自然に溶け込めることだろう。
日本よりは遥かに生き易い筈だ。
…それに…環境を変えることも、今の君には必要だと思うのだよ」
…心機一転、パリで新しい人生を…。
そんなことが自分に許されるのだろうか…。
…けれど…。
そうまでしないと、あの男のことは忘れられそうもない。
今のままでいると…あの男への憎悪と悲憤と…様々などろどろとした感情で自分が押し潰されてしまいそうだ…。
瑞葉は二人の注目の中、ゆっくりと貌を上げた。
「…分かりました。僕をパリに連れて行って下さい」
「瑞葉!良かった!」
藍は瑞葉の手を握り締め、歓声をあげた。
青山は満足げに頷き立ち上がる。
「それでは、君の旅券の手配をしよう。忙しくなるぞ」
その青山に、小さいがきっぱりとした声を掛ける。
「あの…青山様。一つお願いがあります」
二人は同時に瑞葉を見つめた。
瑞葉を抱き寄せたまま、悪戯めいた口調で話しかける。
「何?史郎さん。俺、今瑞葉を口説いているんだけど」
青山はやれやれと言った風に肩を聳やかした。
「…瑞葉くんが困っているよ。ほどほどにしなさい」
優しく余裕に満ちた笑顔を瑞葉に向け、向かい側のソファに腰掛ける。
「済まないね、瑞葉くん。どうも藍を甘やかしすぎて躾に失敗したみたいだ。
この綺麗な大型犬は、君が好きで好きで堪らないようだよ」
「犬扱いするなよな」
仏頂面で抗議するのを澄ました顔でやり過ごし、青山は長い脚を優雅に組んだ。
「…早速本題なのだが、私たちが来月パリに渡ることはもう話したね?」
瑞葉は頷く。
「そこでだ。…やはり君も一緒にフランスに渡らないか?」
「…え?」
瑞葉は長い睫毛を瞬かせ、エメラルドの瞳を見張った。
「先日話した時とは、残念ながら状況が変わってしまったしね」
…そうだ。あの日、自分は八雲と生きる決意を新たにして、それを彼に告げに行ったのだ…。
そうしたら…。
哀しみの翳が美しい面に浮かぶのを、藍は痛ましく見守る。
「…私は君を日本に残して置く気にはなれないのだよ。
これからどうするか…とりあえずパリでじっくりと考えてみないか?」
青山の提案に藍が深く頷き、瑞葉の手を握る。
「そうしようよ。パリで心機一転、新しい人生を生き直すんだよ」
「幸いというか、君の容姿は欧州向きだ。
あちらでは自然に溶け込めることだろう。
日本よりは遥かに生き易い筈だ。
…それに…環境を変えることも、今の君には必要だと思うのだよ」
…心機一転、パリで新しい人生を…。
そんなことが自分に許されるのだろうか…。
…けれど…。
そうまでしないと、あの男のことは忘れられそうもない。
今のままでいると…あの男への憎悪と悲憤と…様々などろどろとした感情で自分が押し潰されてしまいそうだ…。
瑞葉は二人の注目の中、ゆっくりと貌を上げた。
「…分かりました。僕をパリに連れて行って下さい」
「瑞葉!良かった!」
藍は瑞葉の手を握り締め、歓声をあげた。
青山は満足げに頷き立ち上がる。
「それでは、君の旅券の手配をしよう。忙しくなるぞ」
その青山に、小さいがきっぱりとした声を掛ける。
「あの…青山様。一つお願いがあります」
二人は同時に瑞葉を見つめた。
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