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エメラルドの鎮魂歌
第10章 エメラルドの鎮魂歌 〜二つの月〜
「本当にいいの?瑞葉。
後悔しない?」
藍が大層惜しそうな表情で瑞葉を見つめる。
「はい。お願いします」
瑞葉は迷いのない声で告げる。

「それではまいりますよ」
人の良さげな理容師が瑞葉の蜂蜜色の美しい長い髪に銀色の鋏を当て、慎重に切り落として行く。
しゃりしゃりと涼やかな音色を立てて、美しい金髪が惜しげもなく切り取られてゆく。

「…もったいないなあ…。まるで金色の絹糸のような美しい髪なのに…」
床に落ちた蜂蜜色の髪の束を手に取り、藍がため息を吐く。
「…いいんです。…これで…」
腰まであったしなやかな美しい蜂蜜色の髪が、さらさらと溢れ落ちるように切り取られてゆく様が鏡に映されている。
瑞葉はただ、静かに見つめていた。

…これでいい…。
あの男が愛したものを、少しずつ削ぎ落としてゆかなくては…。

髪を切りたいと言い出した瑞葉に、青山は直ぐ様に出入りの理容師を呼んでくれた。
藍は驚いて止めたが、瑞葉の意思は硬かった。

「本当ですね。私も長いこと、人様のお髪を切らせて頂いておりますが、こんなにもお美しいお髪は見たことがありません。
緊張いたしますよ」
理容師は軽口を叩きながらも、巧みに髪を切ってゆく。


…小一時間もすると、瑞葉の髪は、その白くか細いうなじが露わになるほどに短くなった。

藍の希望で前髪はやや長めにし、横の髪を耳に掛けるようにしたので、少年のような中性的な美しい少女のような…なんとも優美な髪型に仕上がっていた。

「短い髪も綺麗だよ。美人は何でも似合うね」
藍は、別人のような姿に変わった瑞葉の髪に愛おしげにキスを落とした。

そんな自分の姿を、瑞葉はエメラルドの瞳で瞬きもせずにじっと見つめた。
…その瞳に浮かぶ感情を読み取ることは…とうとう藍にはできなかった。


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