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エメラルドの鎮魂歌
第10章 エメラルドの鎮魂歌 〜二つの月〜
買い物のあとは、三人で銀座のマキシム・ド・パリで早めのディナーとなった。
瑞葉は外のレストランで食事を摂ることは生まれて初めてであった。
テーブルマナーは幼少の頃から八雲に厳格に習っていたので、何も臆することはなかった。

「瑞葉様は、篠宮伯爵家の御曹司です。
どんな席に出ても恥ずかしくないように、品位あるマナーを身につけなくてはなりません」
…八雲の教育は、厳しかった。


青山のテーブルに着いたウエイターはちらちらと瑞葉に眩しげな視線を送ってくる。
彼も、まさか瑞葉がこの年まで幽閉された生活をしてきたとは夢にも思わないだろう。

…本当に自分は特殊な生活をしてきたのだと、実感する。

…けれど…それでもここまで生き延びてこられたのは、八雲のお陰なのだ。
家族にすら見放された自分を…ずっと大切に育ててくれた。
何度も死線を彷徨い、その都度片時も離れずに、一睡もせずに看病してくれた。
…誰よりも…大切に愛してくれたのは八雲だけだったのだ…。

…それなのになぜ…。
瑞葉のフォークの動きが止まる。

…なぜ、八雲は僕を欺いたのか…。
…なぜ、真実を語ろうとしなかったのか…。

…いや、それよりも…。
なぜ、実子である自分を抱いたのか…。

胸が締め付けられるように苦しく…心が闇に閉ざされる。

「…瑞葉?大丈夫?」
「…鴨は嫌いかね?何か他のものをオーダーしようか?」
二人が気遣わしげに声を掛けてくる。

瑞葉は慌てて首を振り、笑顔を作る。
「いいえ。…とても美味しいです…」
…二人に心配を掛けてはならない。

ブルゴーニュの赤ワインを口に運ぶ瑞葉の気分を引き立たせるように、藍がそっと髪に触れてくる。
「良く似合っているよ、その髪も洋服も…。
瑞葉はスタイルがいいんだな。貌が小さくて手足が長い。
…ねえ、また絵のモデルになってよ。
パリで瑞葉を描きたい。
凄く良い絵が描けると思わない?ねえ、史郎さん」
「ああ。想像するだけでわくわくするね」
瑞葉は曖昧に微笑む。

…藍の好意にどう応えて良いのかも分からない。
藍のことはとても好きだ。
触れられても、嫌な気持ちにはならない。
けれど、それが恋愛感情なのかどうか不確かだ。

…僕は、一体どうしたいのだろう…。

遣る瀬無い想いの陰に浮かび来る男の幻影を追い払いながら、瑞葉は密かにため息を吐いた。








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