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エメラルドの鎮魂歌
第10章 エメラルドの鎮魂歌 〜二つの月〜
「…藍さ…ん…」
脱力しそうな安堵の中、思わず彼の胸にしがみつく。
その華奢な身体を、すぐさま強い腕が抱き留める。
「どうしたの?怖い夢でも見たのか?」
…優しい…頼もしい声…。
それはどこか、最愛の弟 和葉に似ていた…。
温かな体温とともに、恐怖に凍りついた瑞葉の心がわずかに溶かされ、緩んでゆく…。
「…なんでも…ないです…」
力無く首を振る瑞葉の貌を自分に向けさせる。
「八雲か?八雲の夢でも見たのか?」
瑞葉の為に憤りを露わにした瞳を見返し、首を振る?
「…違います…。少し…疲れていたから…。
もう大丈夫です…。すみません。起こしてしまって…」
謝る瑞葉の身体を掬い上げるように抱き竦められる。
くぐもった声が頸に押し付けられた。
「…瑞葉…!あいつのことはもう忘れろ。
俺がいる。俺は…あんたの恋人になりたい。
あんたを幸せにしたい。…瑞葉…。
俺を…あんたの恋人にして…」
「…藍さ…!」
戦慄く唇をいきなり奪われる。
「…ん…っ…!」
驚き喘ぐ唇を滑らかに割られ、舌を差し入れられる。
「…あ…ああ…ん…っ…」
感じやすい口蓋を弄られ、舌を絡められ、瑞葉の体温が一気に上がる。

…先ほど見ていた淫らな夢の名残り…快楽の熾火に再び火が灯り始める。
「…んん…っ…あ…ん…」
色香に満ちた声が次第に上がるのを、藍は感激したように抱きしめる腕の力を強くする。
「…あんたのキスは…いつも甘い…」
そのまま、寝間着の前釦を開かれる。
藍の芸術家らしい綺麗な手が瑞葉の胸の尖りを弄る。
「…だめ…そんな…だめです…」
…これ以上はだめだ。
藍は青山のものなのだ。
…それに…自分も…。

…自分は…誰のものなのか…。
もはや、八雲は恋人でもなんでもない…。

どうしようもない空虚感に囚われ、抗う力が弱くなる。
それを受け入れと解釈した藍は、大胆に瑞葉を寝台に押し倒した。
「…好きだよ…大好きだ…。
あんたが欲しい…あんたを抱きたい…!」
我に返った瑞葉が激しく首を振る。
「だめ…だめです…!藍さんには…青山様が…それに…」
…これ以上、藍を穢す訳にはいかない…!
「…僕は…穢れています…僕を抱いたら…藍さんまで…穢れてしまう…!」
哀切に満ちた瑞葉の声が、藍の動きを止める。

…と、扉の前で静かな青山の声が響いた。
「…そんな風に自分を貶めるのはやめ給え」




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