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エメラルドの鎮魂歌
第10章 エメラルドの鎮魂歌 〜二つの月〜
背筋が凍るほどに驚愕する。
「あ、青山様!」
起き上がり怯える瑞葉に、青山が優しく近づく。
「…すまないね、うちの大型犬が…。
待ても効かないし、私の言う事は一切聞かないのだ。
困った子だよ」
「…なんだよ、あんたか…」
憮然として起き上がり、藍はため息を吐く。
「邪魔しに来たのか?それとも説教?」

寝台に腰掛けながら、青山は微笑む。
そして、藍の形の良い顎に手を掛ける。
「どちらでもないね。
…藍、瑞葉くんをどうしても抱きたいなら私の前で抱きなさい。
けれど無理強いはだめだ。瑞葉くんの気持ちを大切にしなさい」
瑞葉は耳を疑った。
青山の発言の何もかもが信じられない。
「な…っ…青山様…何を…!」
青山の人好きのする甘い眼差しが瑞葉を捉える。
「君はまだ八雲に想いを残しているね?」
藍が息を飲む。
「…そうなの?瑞葉…」
瑞葉は必死で首を振る。
「そんな…そんなこと…ありません…!
八雲は…僕を騙したんです。好きなわけがない!
…あんな…あんな男…!あんな悪魔…考えただけで身の毛がよだちます!」
自分の身体を抱きしめる。
…実の父親に抱かれた自分にも…嫌悪感が募るばかりだ。
「君は自分を穢れていると思っているね」
瑞葉の身体がびくりと震える。
「けれど、それは違う。君は穢れてなどいない。
例え、実の父親に抱かれたとしても君は穢されてはいないし、それは君のせいではないのだよ」
「…青山様…?」
青山の不思議な色を湛えた温かみと艶のある瞳が微笑む。
「身体など、大したことではないのだよ。
君が藍に抱かれることで、君自身の身体に対する嫌悪感が薄れるなら…試してみる価値はあるのではないか?」
瑞葉は震えながら、首を振る。
「…そんな…そんなこと…」
青山が、その手入れの行き届いた美しい手で、瑞葉の髪を撫でる。
…母親が子どもをあやすかのような、優しい仕草だった。
「…快楽を感じるのは、悪いことではない。
君は快楽を感じることを罪悪だと思っている。
それは八雲によって初めて与えられたものだから、そう決めつけているのだ。
…君はもっと自由に解放されていいんだよ…」

…青山の手が降ろされ、瑞葉の寝間着をしなやかに脱がす。
「…青山…さ…ま…だめ…」
消え入りそうに首を振る瑞葉の背後から、藍が露わになった頸に熱い口づけを落とす。
「…瑞葉…あんたを…幸せにしたいんだよ…」


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