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エメラルドの鎮魂歌
第2章 その薔薇の秘密は誰も知らない
八雲は、目の前に繰り広げられる光景に我が目を疑った。
…瑞葉が男に囚われ、壁際に追い詰められている。
それだけで、全身が血が燃え滾るほどの怒りに襲われそうなのに、目にしたもうひとつの事実を八雲は現実と受け止められずにいたのだ。
…瑞葉は…自分の脚で立っていた。
誰に支えられることなく、自力で佇んでいたのだ…。
「瑞葉様!」
「八雲…!」
自分の名を呼ぶと、その長く美しい脚でしなやかに走り寄り、己れの胸に飛び込んできた瑞葉を信じられないように見つめ、しかし直ぐに男から庇うように立ちはだかった。
男の貌を見た八雲は、再び驚きの声を上げた。
「青山様ではありませんか!ここで何をなさっておいでなのですか⁈」
悪びれることなく、優雅に腕を組んで微笑んでいるのは、今宵の夜会の招待客でパリで手広く美術商を営んでいる青山史郎いう名の紳士であった。
彼は今宵の夜会でも常に多くの人々の話の輪の中心に存在し、華やかなオーラを振りまく大変な人気の人物であった。
青山史郎の家柄は伯爵家で、彼は末の子息らしいが幼少期を英国で過ごしパブリックスクールを卒業し、日本に帰国したのち、帝大に入学した。
その後、再びフランスに渡りパリ大学大学院で美学を学び、パリで画廊をいくつも開き、腕利きの画商として華々しく活躍しているという異色の人物であった。
今は、銀座に新しく画廊をオープンする準備の為に一時帰国していた。
征一郎と青山は帝大時代の同級生であったそうで、その縁で夜会にも招かれていたのだ。
富も名誉も才能も…そして優れた容姿も人望もすべて手に入れている者特有のきらきらと輝くオーラを纏いながらも、彼は少しも偉ぶらず、肩の力が抜けた洒脱なユーモアと…それでいて独特の卓逸された美学を感じさせる一流の紳士ぶりであった。
その彼がなぜ瑞葉の部屋に忍び込んでいるのか?
八雲は背後の瑞葉を庇いつつ、再び感情を押し殺して尋ねた。
「恐れながら伺います。なぜ青山様がこちらにいらっしゃるのですか?」
…瑞葉が男に囚われ、壁際に追い詰められている。
それだけで、全身が血が燃え滾るほどの怒りに襲われそうなのに、目にしたもうひとつの事実を八雲は現実と受け止められずにいたのだ。
…瑞葉は…自分の脚で立っていた。
誰に支えられることなく、自力で佇んでいたのだ…。
「瑞葉様!」
「八雲…!」
自分の名を呼ぶと、その長く美しい脚でしなやかに走り寄り、己れの胸に飛び込んできた瑞葉を信じられないように見つめ、しかし直ぐに男から庇うように立ちはだかった。
男の貌を見た八雲は、再び驚きの声を上げた。
「青山様ではありませんか!ここで何をなさっておいでなのですか⁈」
悪びれることなく、優雅に腕を組んで微笑んでいるのは、今宵の夜会の招待客でパリで手広く美術商を営んでいる青山史郎いう名の紳士であった。
彼は今宵の夜会でも常に多くの人々の話の輪の中心に存在し、華やかなオーラを振りまく大変な人気の人物であった。
青山史郎の家柄は伯爵家で、彼は末の子息らしいが幼少期を英国で過ごしパブリックスクールを卒業し、日本に帰国したのち、帝大に入学した。
その後、再びフランスに渡りパリ大学大学院で美学を学び、パリで画廊をいくつも開き、腕利きの画商として華々しく活躍しているという異色の人物であった。
今は、銀座に新しく画廊をオープンする準備の為に一時帰国していた。
征一郎と青山は帝大時代の同級生であったそうで、その縁で夜会にも招かれていたのだ。
富も名誉も才能も…そして優れた容姿も人望もすべて手に入れている者特有のきらきらと輝くオーラを纏いながらも、彼は少しも偉ぶらず、肩の力が抜けた洒脱なユーモアと…それでいて独特の卓逸された美学を感じさせる一流の紳士ぶりであった。
その彼がなぜ瑞葉の部屋に忍び込んでいるのか?
八雲は背後の瑞葉を庇いつつ、再び感情を押し殺して尋ねた。
「恐れながら伺います。なぜ青山様がこちらにいらっしゃるのですか?」