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エメラルドの鎮魂歌
第2章 その薔薇の秘密は誰も知らない
青山が廊下から遠ざかったのを確認し、八雲は部屋の鍵を閉めた。
蒼ざめた貌で立ち竦む瑞葉に近づき、声をかける。
「瑞葉様…!これは一体…」
瑞葉の白い頬に透明な涙が伝い始める。
「…ごめんなさい…八雲…。僕を許して…」
幼児のように泣き崩れる瑞葉を寝台に優しく誘い、腰掛けさせる。
「瑞葉様…。いつからですか?…いつからお歩きになられたのですか?」
しゃくり上げる瑞葉の手を握りしめ、辛抱強く尋ねる。

「…和葉が生まれた頃…ふと気がついたら…一人で立てるようになって…。
毎日内緒で練習したら少しずつ歩けるようになってきたんだ…」
「なぜ、そんな大事なことをずっと隠していらしたのですか?」

瑞葉は自分との歩行訓練を嫌がった。
もう歩けなくてもいい…。
そう言って訓練をしなくなったのだ。
八雲は無理強いをしたくなくて、訓練はそのままになった。

瑞葉はエメラルドの瞳に涙を溢れさせ、唇を噛み締めた。
「…和葉が生まれて…もし、僕が歩けることが皆に知れたら…八雲はもう僕の世話を焼く必要がなくなる…。
…お祖母様に、八雲を取り上げられたらどうしよう…て。
歩けなければ…この脚が動かなければ…八雲はずっと僕の側にいてくれる…そう思って…言わなかったんだ…」

泣き崩れる瑞葉を、八雲は堪らずに抱きしめた。
「もう、よろしいのです。もう…お泣きにならないでください。瑞葉様は何も悪くありません。
…私が…もっと早く、貴方のお気持ちに気づいて差し上げたら良かったのです」
八雲の腕の中で瑞葉が貌を上げる。
「八雲…僕を…嫌いにならない?」
掬い上げるようにその美しい小さな貌を持ち上げる。
「なる訳がない。…いえ、私は感激しています。
貴方がそこまで私を欲して下さっていたことを…」
「…八雲…」
深い深いエメラルドの湖面に、自分が映っている…。
「…この話を…皆にする?」
八雲は静かに首を振り、そっと囁いた。
「…今まで通り…このまま黙っていましょう。
貴方は何も変わらない。今まで通り、私は瑞葉様のお側で、貴方にだけお仕えいたします。
…永遠に…離れません…」
「…八雲…」
…愛している…と告げた言葉は、そのまま男の熱い唇に食まれ、瑞葉は甘く蕩けさせられる口づけに翻弄された…。

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