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エメラルドの鎮魂歌
第3章 禁断の愛の果実
晩餐の席で、その夜の主役たる和葉は先ほどからそわそわしていた。
それは母親、千賀子も同じであった。
藤色の大人しいイブニングドレスに身を包んだ千賀子はどこか落ち着きない様子でダイニングルームの入り口の扉ばかりを何度も気にしていた。
「…お母様、兄様が気になるの?」
そっと尋ねると、千賀子は頷いた。
「…ええ。お義母様が瑞葉さんの出席を許して下さるなんて信じられなくて…。
瑞葉さん、大丈夫かしら。ちゃんと来てくださるかしらね?」
心配そうに眼を瞬かせる千賀子に、提案する。
「心配ならお部屋まで見に行ったら?
一緒に付き添ってあげたら、兄様も心強いと思うよ」
千賀子が怯えたように首を振った。
「駄目よ。…お義母様に何て言われるか…。
またお叱りを受けるわ」
哀しげに眼を伏せる母を、和葉は落胆の気持ちで見つめる。
…いつもそうだ…。
お母様は、お祖母様に叱責されることだけを恐れている。
まるで恐ろしい獅子に睨まれた子兎のように常に怯えている。
兄様のことを愛していないわけではないだろうが…
けれど、その愛はとても薄い…。
それが透けて見えて、和葉は常に遣る瀬無くなる。
…と、不意にダイニングルームの空気が硬いものに変わった。
侍女を従えた薫子が現れたのだ。
間髪を入れずに千賀子と征一郎、そして和葉が起立して薫子を出迎える。
鈍色のシフォンタフタのイブニングドレスに身を包んだ薫子は、西洋の厳めしい女王のような威厳と風格を漂わせ、家族の前に君臨する。
薫子は一堂を睥睨するように見渡し、和葉にだけ薄く微笑み
「和葉さん。そのテイルコート、とてもお似合いですよ」
さらりと褒めると、しなやかに着席した。
それは母親、千賀子も同じであった。
藤色の大人しいイブニングドレスに身を包んだ千賀子はどこか落ち着きない様子でダイニングルームの入り口の扉ばかりを何度も気にしていた。
「…お母様、兄様が気になるの?」
そっと尋ねると、千賀子は頷いた。
「…ええ。お義母様が瑞葉さんの出席を許して下さるなんて信じられなくて…。
瑞葉さん、大丈夫かしら。ちゃんと来てくださるかしらね?」
心配そうに眼を瞬かせる千賀子に、提案する。
「心配ならお部屋まで見に行ったら?
一緒に付き添ってあげたら、兄様も心強いと思うよ」
千賀子が怯えたように首を振った。
「駄目よ。…お義母様に何て言われるか…。
またお叱りを受けるわ」
哀しげに眼を伏せる母を、和葉は落胆の気持ちで見つめる。
…いつもそうだ…。
お母様は、お祖母様に叱責されることだけを恐れている。
まるで恐ろしい獅子に睨まれた子兎のように常に怯えている。
兄様のことを愛していないわけではないだろうが…
けれど、その愛はとても薄い…。
それが透けて見えて、和葉は常に遣る瀬無くなる。
…と、不意にダイニングルームの空気が硬いものに変わった。
侍女を従えた薫子が現れたのだ。
間髪を入れずに千賀子と征一郎、そして和葉が起立して薫子を出迎える。
鈍色のシフォンタフタのイブニングドレスに身を包んだ薫子は、西洋の厳めしい女王のような威厳と風格を漂わせ、家族の前に君臨する。
薫子は一堂を睥睨するように見渡し、和葉にだけ薄く微笑み
「和葉さん。そのテイルコート、とてもお似合いですよ」
さらりと褒めると、しなやかに着席した。