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エメラルドの鎮魂歌
第3章 禁断の愛の果実
着席してすぐに空席の椅子を見遣り、薫子は柳眉を跳ね上げた。
「瑞葉はまだなの?…本当に…あの子は…」
和葉がすかさずに言い返した。
「兄様のところには、メイドや下僕が殆どいないから、支度に時間がかかるんです。
お祖母様の下僕を貸して差し上げたら良いのに」
千賀子が青ざめて、和葉を諌める。
「和葉さん…」
薫子は不機嫌になった様子はなく、しかし薄い唇を歪めて言い放つ。
「あの子には八雲が付いているのですよ。
ほかの使用人など最小限で良いはずです」
和葉が更に反論しようとした時…。
ダイニングルームの扉が開き、良く通る低い美声が響き渡った。
「お待たせいたしまして、申し訳ありません」
振り返る和葉の瞳に、八雲に抱かれた瑞葉の姿が飛び込んできた。
ダイニングルームの空気が一変した。
伽羅の香りが辺りを包み込む。
家族も…その場にいる使用人たちも一斉に息を呑んだ。
瑞葉は美しい蜂蜜色の長い髪を、綺麗に緩やかに編み込み、菫色のリボンで結んでいた。
真珠色のレースがふんだんに使われたクラシカルなローブドレスはさながら中世の高貴な王女のように気品高く優雅な出で立ちであった。
裾の長い衣装は、脚が不自由な瑞葉の為に仕立てられたものだろう。
時代がかったクラシカルな女性ものの衣装だが、浮世離れした神聖な…どこか天女めいた清麗な美貌を備えた瑞葉にはこれ以外ないほどに良く似合っていた。
練絹のように白く艶やかな肌、典雅な目鼻立ち、エメラルド色の美しい瞳、薔薇の花弁色の唇…。
すべてが耽美な絵画の姫君のように麗しい。
瑞葉は普段西翼に幽閉同然の暮らしをしているので、瑞葉を初めて見る使用人も多かった。
彼らは、思わず動作を止め、この世のものと思えないような佳人に眼を奪われ…そして、なぜこのように美しく優美な芸術品のような青年…和葉の兄だというのに…が、ひと気のない西翼の部屋に閉じ込められているのか…。
皆の胸に同じく疑問として残ったのだった。
「瑞葉はまだなの?…本当に…あの子は…」
和葉がすかさずに言い返した。
「兄様のところには、メイドや下僕が殆どいないから、支度に時間がかかるんです。
お祖母様の下僕を貸して差し上げたら良いのに」
千賀子が青ざめて、和葉を諌める。
「和葉さん…」
薫子は不機嫌になった様子はなく、しかし薄い唇を歪めて言い放つ。
「あの子には八雲が付いているのですよ。
ほかの使用人など最小限で良いはずです」
和葉が更に反論しようとした時…。
ダイニングルームの扉が開き、良く通る低い美声が響き渡った。
「お待たせいたしまして、申し訳ありません」
振り返る和葉の瞳に、八雲に抱かれた瑞葉の姿が飛び込んできた。
ダイニングルームの空気が一変した。
伽羅の香りが辺りを包み込む。
家族も…その場にいる使用人たちも一斉に息を呑んだ。
瑞葉は美しい蜂蜜色の長い髪を、綺麗に緩やかに編み込み、菫色のリボンで結んでいた。
真珠色のレースがふんだんに使われたクラシカルなローブドレスはさながら中世の高貴な王女のように気品高く優雅な出で立ちであった。
裾の長い衣装は、脚が不自由な瑞葉の為に仕立てられたものだろう。
時代がかったクラシカルな女性ものの衣装だが、浮世離れした神聖な…どこか天女めいた清麗な美貌を備えた瑞葉にはこれ以外ないほどに良く似合っていた。
練絹のように白く艶やかな肌、典雅な目鼻立ち、エメラルド色の美しい瞳、薔薇の花弁色の唇…。
すべてが耽美な絵画の姫君のように麗しい。
瑞葉は普段西翼に幽閉同然の暮らしをしているので、瑞葉を初めて見る使用人も多かった。
彼らは、思わず動作を止め、この世のものと思えないような佳人に眼を奪われ…そして、なぜこのように美しく優美な芸術品のような青年…和葉の兄だというのに…が、ひと気のない西翼の部屋に閉じ込められているのか…。
皆の胸に同じく疑問として残ったのだった。