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卒業祝い
第3章 転
信司は、ユキのきつい物言いにも動じず、うすら笑いを浮かべながら

「もう観念しなよ。あれこれ考えるから動けなくなるんだよ」

と言って、ぐいぐい腕を引っ張る。

ユキは、強引な力で浴室に引き込まれようとしている今の状況に、顔から火が出るほどの恥ずかしさを感じた。

「わかった。わかったから。すぐ行くから。待って」

中腰で抗うユキの手をようやく離す。

彼女がしゃがみこむと、信司はバスタブに一人で浸かった。

バスタブに信司が浸かったということは、お風呂場に全裸でユキが入室するところを正面からまじまじと見られることになるのではないか。

状況を仔細にとらえればとらえるほど、恥ずかしさは、つのるばかりだ。

そ、そうだ。タ、タオルは?どこ?

見回すと、大きめのバスタオルしかない。

「信司、タオルないけど・・・」

「え!タオルはこっちにあるよ。風呂上がりのバスタオルなら、そっちにあるけどね」

こっちって?どういうこと。

「ちょっと、タオルないと入れないよ。恥ずかしくって無理」

「えー、いいじゃん。もたもたしてると、そっちの方がもっと恥ずかしいと思うよ」

ユキの言うことを信司はまともに取り扱わない。

「は、は、はくしゅん!」

そんな問答をしているうちに、ユキの身体は冷えてしまって、くしゃみが出る始末。

微妙に身体が震え始めている。

もう・・ほんとに、もう・・

このまま、こうしていても仕方がないし。

ユキはブラとショーツを脱いで、浴室の取っ手を回した。

ぐいと引き、顔を出して、中の様子を伺う。

バスタブに腕を乗せて、そのまた上に顎を乗せて、こちらを見ている信司の顔が目に入った。

やっぱり・・・

「お!覚悟を決めたね。そこ寒いでしょ。早く入ってきなよ」

信司は、ユキの心の揺れなどおかまいなし。

どうして、そんなに落ち着いちゃってるの?

あんたは、恥ずかしくないの。

いくら、そう思っても、この状況が変わることはないのはわかっていた。

ユキは、意を決して、腕を自分の身体の前にクロスさせ、隠すようにしながら、左足を一歩浴室に進めた。

「入るから、ちょっと向こう向いててよ」

「わかったよ」

素直に、信司は腕をバスタブのふちから下ろして、後ろを向いた。


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