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弥輿(みこし)
第10章 豊漁祭・秘中の儀式
(今日をやり過ごしても5日間に渡るお通り、それが終われば数日に一度のお渡り。
どの道愛海さんに取れば、辛い日々になるのは確かだというのに……)
柊として、過ぎる行為は止める事は出来ても、通う年男を止める権利は俺には無い。
教えとしては知っていたが、俺に取っても初めての弥の巫女、初めての奥宮神事。
男達の欲が、此ほど巫女を狂わせ傷つけるものとは……だから神主などと、先程の思いを蒸し返しそうになってしまう。
(護れる限り、俺が貴女を護ります、愛海さん)
それが久遠神社の……いや、愛海さんに手を出してしまった俺の覚悟。
壊させはしない。目を瞑る事があったとしても、目を逸らす事だけは絶対にしない。
神主という立場を超えてしまった、俺の愛海さんに対する愛情を壊すのだけは絶対に嫌だと心の底から思う。
「………………」
通年であれば、儀式の後の宴は数時間で終わる。
特に時間の制限は無いが、闇夜の内に奥宮を出るのが、この奥宮祭のしきたりの1つでもある。
天狗の面に白装束を隠す意味も込められてはいるが。
俺がそう思って、何れくらい経ったのだろう?
程よく酔った年男達と隼様が酒宴を切り上げ、余韻を残しながらも楽しげに奥宮がら1人、また1人と去って行くのを、俺はただひたすら感情の籠らない目で見詰めていた。
最後に一明が奥宮から立ち去るのを確認してから、俺は漸く立ち上がる。
先ずは奥宮の門を閉めなければならない。
古い扉の男が鳴り、奥宮唯一の扉を閉めてから閂を掛け、これで一先ずは良い、それよりも!
「愛海さん!!」
足早に祭壇の上に横たわる愛海さんに近寄っても、愛海さんは目覚める気配すら見せない。
「……こんな、こんなに汚されて……。
すみません愛海さん」
欲望の残滓が時間が経過し、乾きこびり付いた愛海さんの肢体に、そっと触れてから、その体を持ち上げる。
此のままには出来る筈がない、すぐに湯に浸け残滓を流さなくては。
「もう少しだけ我慢して下さい」
意識の無い愛海さん。湯に浸けても、布団に寝かせても、一向に気が付く様子すら見受けられない。
「ここまで……ここまで落とすのですか、弥の巫女を!」
割り切れない憤りを感じながら、久遠村最大の神事である、奥宮祭はこうして幕を閉じた。