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弥輿(みこし)
第5章 久遠神社・柊修
「……………」
辛そうな瞳をし山を降りて行く彼、久遠村の風習と、宗方には逆らえないという、二重に縛られた苦渋の決断だった事くらいは手に取るように分かる。
俺も同じ、世襲とはいえ逆らう事が出来なかったのだから。
「こんな狭い村だからこそ、風習やしきたりなどという理不尽が罷り通る」
言葉に出しても辛いだけ、それは分かっているが、言葉にしないとやりきれない時だってある。
俺も彼も、言葉として吐き出す事で、自身の心の安定を図り現実から目を反らして、それで生きていかなければならない。
逆らえば……宗方が動く、それは久遠村では当然の話。
自分の居場所に居たければ逆らう事なく、大人しく自分の役割をこなし生きてゆく、本当に久遠村らしい縛りだと思う。
◇
(それにしても目を覚まさない)
隼様が愛海さんを連れて来て、既に1日以上が経過。
だが一向に目を覚ます事は無く、愛海さん淡々と眠っているだけ。
それとも、隼様との行為で心が壊れてしまったのだろうか?
見た感じ身体的には異常らしきものは見受けられず、こうして眠り続ける原因が分からない。
もし明日も眠り続けるのならば、医者に見せるしか無いだろう、だが隼様が頷くかどうか……
「弥の巫女は秘匿するもの」
このしきたりがある限り、久遠村に唯一居る医者には見せられない。
あの病院には看護婦が居り、往診の時は一緒に付いて回っている筈、だから見せる事が出来ない決まり。
「昔はどうしていたのでしょうか?
何か記録が残っていれば、良い口実になるというのに……」
社務所にある古い記録帳を開き、手がかりになる記録がないか確めて見たが、それらしい記録は……無かった。
最悪は深夜に村を抜け出し街の病院へ、俺にはその程度しか思い浮かばず、それも村の外となれば隼様の逆鱗に触れるだろう位は予想出来てしまう。
(困った)
人が何日も眠ったままでは体が保たず、必ず衰弱し最後には動ける体力も無くなってしまうのは、医者でない俺でも簡単に考え付く範囲。
せめて明日、明日迄に目を覚ませば、軽い脱水症状で済むものを……
やきもきしながら夜になり、心配心から眠れずに朝まで愛海さんの様子を定期的に見に来て、流石に今日は……そう思った頃に大広間からゴソゴソという物音が聞こえて来た。