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第9章 欲しがりや
たまたま隣り座っていて、和香奈の方が診察が早目に終わって眼科を後にした。
和香奈の座っていたソファの近くに定期入れが落ちていたのを見つけて、和香奈を追い掛けて光輝が届けたのがきっかけだった。
和香奈はお礼を言って帰ろうとすると、光輝は『次はいつ予約入れたんですか?』と聞いたらしい。
『えっ?』和香奈がびっくりして答えられずにいると、『また会いたいから』と光輝が運命を匂わせるような甘い言葉を囁いたらしい。
嬉しそうに話す和香奈を尻目に、『それ、こいつの手だから』と心で呟いた。
光輝は女に関してはマメなくせにだらしないところがあった。
定期入れを拾った時から、光輝の頭の中は和香奈をどうやって落とすかのシナリオが瞬時に閃いたはずだ。
メンズ雑誌でファッションやルックスを磨くだけではなく、そういうとこにも抜かりがない奴で、こいつに泣かされた女は何人も知っていた。
ただ、これだけ抜かりのない奴は、女を自分の家には滅多に上げない。
合鍵が欲しいと言われても、自分の生活を乱されるのを嫌った。
鉢合わせの危険を避ける計算も働き、『お袋が連絡とかなしで突然来る時あるからヤバイって』と賢い言い訳を押し通す用意周到のとこは、さすがだと感心したほどだ。
部屋に女を上げて台所で料理をさせる自体、その時の和香奈は光輝にとって特別だったのかもしれない。