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第9章 欲しがりや
「俺さ……和香奈と別れようと思う。
和香奈は意外と真面目だし、俺みたいなチャラ男じゃ大事にしてやれない」
「それなら早めに言ってやれよ」
「だよな……中々切り出せなくて」
「それ、優しさじゃなくて無責任って言うんだよ」
「分かってる」
「言われる方が辛いんだぞ。
言う奴はもう未来が決まってるんだ。
言われる方は予測もしてなかった未来に放り出されるんだからな」
俺はこの時、母さんと離婚したばかりの親父を思い出していた。
母さんは俺を引き取る気は一切ない事を告げて離婚に踏み切った。
仕事のストレスも加わり、親父はそこから酒浸りになった。
気を紛らす為に酒を飲んで、八つ当たりを家族にするようになって、日に日にやつれていって、とうとう胃潰瘍になって倒れた。
数日間入院して、体は回復しても心までは回復出来てなかったらしく、また酒を飲む荒れた生活を続けていた。
母さんの事を吹っ切ろうとして、女と付き合ってはみたものの、親父が望む女には中々出会えず、愚痴ばかりこぼす腑抜けた惨めな男へとなっていった。
そういう毎日にうんざりしたからこそ、俺は自立心が芽ばえたんだ。
親父が本当に母さんを忘れられたのは、夏帆さんと出会ってからだった。