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Seven
第7章 急加速

 キスの衝撃が強過ぎて、しばらく その場から動けなかった。

 雪さんの心理がまったく分からない。私は好きな人としかキスもその先もしたくない。でも、彼はそうじゃない。

──あのキスに感情はあったのだろうか。

 挨拶代わりのような軽いキス。それでも私の心を騒がせるには十分で。いつまでも休憩スペースにいるわけにもいかない。室内に仄かに残っている雪さんの香りに先ほどの光景が浮かぶ。高鳴る胸を抑えるように手をあてながら、ジムへと戻った。

 「ふざけんなよ!」怒声が響き、そこは修羅場と化していた。人だかりができ、その中心には雪さんとユータくんの姿が。すごい剣幕で雪さんの胸倉を掴んでいるユータくんに対し、雪さんは諦めとも取れる表情を浮かべ、ユータくんから視線を逸らしていた。

 近くにいた女性に「どうしたんですか?」と尋ねると、「詳しいことは分からないけど、いきなりトレーナーの男性があの人に掴みかかったの」と教えてくれた。

 今日のユータくんは以前よりも気が立っていた。ジュディさんも何かあったニュアンスのことを話していたから、そのことで雪さんに掴みかかったのだろう。

「また姉貴のことを捨てるのか?」
「……そう思ってくれてもいいよ」
「なんなんだよ!! その投げやりな態度は!!」
「……帰らせてもってもいい?」
「は!? 逃げる気か? お前のせいで姉貴がどれだけ振り回されたか分かってるのか?」
「……そのことなら、すでに謝った」
「謝って済む問題じゃねぇだろ!! 姉貴は──」
「お前こそ、アイツと向き合って現実を受け止めろ」

 何かをユータくんの耳元で雪さんが囁いたかと思ったら、鈍く痛い音が聞こえた。ユータくんが思いっきり雪さんを殴ったのだ。床には雪さんの血が飛び散った。

 その後も雪さんに殴りかかろうとしているのを近くで見ていた男性たちが止めに行ったが、誰も彼もユータくんに返り討ちにされてしまう。

 いつもなら歯止め役のジュディさんが止めに入るが、どこにも姿がない。私が止めに入っても返り討ちにあうだけ。もしかしたら、ジュディさんは事務所にいるかもしれない。

 乱闘状態になっている場から離れ、急いで事務所へと駆け込んだ。
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