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Seven
第7章 急加速

 一時間ほどジムで汗を流し、休憩スペースへ移動した。運動をサボっていたから、体が重い。二十代後半、三十路手前。どんどん若さが失われていく。運動後の疲労が半端じゃない。いつまでも若くないのだと思い知らされる。

 ベンチに腰掛けていると、懐かしい香りが鼻に届いた。まさか──期待に胸が弾む。だが、同じ香りを身に纏っている人物は彼だけじゃない。そう頭では分かっていても、香りが増すほどに彼であってほしいと願ってしまう。けれど、期待して外れたときほど悲しいことはない。期待した分、絶望感は何倍にも膨れ上がり、襲い来る。

 期待なんてしたくない。悲しむのは目に見えているから。それなのに……心は言うことを聞かない。彼だよ! 間違いなく、彼だって!と主張するように心音を鳴らす。

 見てはいけないとわかっているのに、香りがする方を見てしまった。

「あれ? 深雪ちゃんじゃん!」
「あ……」

 嘘……。そこに居たのは紛れもなく、雪さん本人だった。どうしよう、すごく嬉しい。不意打ちの出会いに感謝。でも、彼にこの気持ちを悟られないようにしないと。

 雪さんは私の前に立った。会えなかった日々なんて一瞬で忘れてしまう。目の前にいる彼を見つめると、自然と頬が緩む。彼もまた私を見つめ、やさしく微笑んだ。


「なんだか、雰囲気変わったね。髪伸びて、綺麗になった?」
「そ、そうですか? 雪さん、お元気そうで安心しました」
「あれ? もしかして──俺のこと、心配してくれてたの?」
「そりゃ心配しますよ! 急に退社しちゃうし……。ずっと顔見れなかったんですから」

 ──あれ? 雪さん、顔赤い? 

「深雪ちゃんてさ、時々爆弾発言するよね」
「え?」
「……あんまり可愛いこと言うと──」

 視界が暗転。何が起きたかは、唇に残った感触が物語っていた。

「俺も狼になっちゃうからね」
「──っ!?」

 「またね」そう言い残し、彼は去っていった。一人になった休憩スペース。自分の唇を指でなぞる。確かに触れた彼の唇。短い時間ではあったけど、確かに重なった。

 突然のことに思考が止まったまま。雪さんと──キス、したの?

 

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