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Seven
第5章 縮まる距離、開く距離
「西宮さん、今日暇?」
「え?」
営業から会社へ帰っている途中、突然雪さんから今日の予定を聞かれた。「特に予定はないです」遊びに誘ってくれるのだろうか……。つい期待して、顔が綻びてしまう。
「じゃ、参加決定ね!」
「なんの参加ですか?」
「忘れたの? この間、話したじゃん」
「あ!!」
忘れていた……。それも綺麗さっぱり。「最近、体なまちゃって」そう切り出した私に「だったら、いいジムあるから紹介する」と彼は言っていた。大分前の話だった気がするが、しっかり彼は覚えていたらしい……。
「仕事終わったら、ジム行くから」
「でも、着替えも何も持って無いですよ……」
「それなら心配しなくていいよ」
「ジムで貸し出してるんですか?」
「違う。──俺が見立ててやる」
「雪さんが……」
なんだろう……。すごく嫌な予感がするのは。
「ボディライン、きっちり出るやつね」
「そんなの恥ずかしくて着れませんよっ!」
「え~……」
「膨れっ面したってダメです!!」
「──ダメなの?」低い声が鼓膜を揺らす。距離が近い。彼の香水がふわりと薫る。緊張して息がつまりそう。早く離れて……。私の願いを無視するように信号機は赤いランプを点(とも)したまま。停車中の車内、密室の空間、触れ合う肩と肩──ドキドキ要素しかない。
「本当にダメなの?」
「……ダメなものは、ダメです」
「ぷっ!」
「あはははは!」急に笑い出した雪さん。「なんですか!?」私、変なこと言っただろうか。
「深雪ちゃん、言い方がエロい!」
「は!?」
「顔真っ赤!!」
「もう……」
「可愛い」
「絶対からかってるでしょ!」
「さぁ~、どうだろうね~」
いたずらっ子の笑みを浮かべ、雪さんは楽しそうな顔をしている。からかわれてイラッとするけれど、どこか憎めない。おまけに栗木さんの言葉を思い出し、口許が緩んでしまう。
『陣川くん、西宮ちゃんのこと気に入ってるみたいね。一緒にいる時、いっつも楽しそうだもん』