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Seven
第5章 縮まる距離、開く距離
帰りの車内はお通夜のようだった。会話がないまま、どんどん車は進んでいく。
「雪さん」
「……んー?」
これで何度目の声かけだろう。上の空の返事に続きの話題が出てこない。
「……もしかして、気遣わせてる?」
「え?」
「そういうの要らないから」
冷たい言葉と声音。──まただ。縮まったと感じた距離に浮かれすぎていたみたい。本当は、一歩縮まって二歩後退していたのかもしれない。雪さんと仲良くなれたと感じるほど、心の距離が離れていく。
「ねぇ、深雪ちゃん──彼氏、できた?」
「またその質問ですかー!?」冗談めかして、いつもだったら笑えたかもしれない。でも今は──素直になんかなれそうにない。
「……出会いがないわけじゃないですからねー」
助手席の窓の外に広がる夜の闇に染まった街に遠い目を送り、素っ気なく返した。
「……だよなー。俺なんかより、ずっと若いし。俺みたいなオジサンがデートに誘ったって、デートしないよな」
……デートに誘われた、のだろうか。それとも、例え話をしているだけ? ちらっと運転席に視線を切り替えた。正面を見据え、ハンドルを握っている雪さん。その横顔から真意は窺えない。
「若い内は、たくさん遊んだほうがいい。俺みたいに歳を取ると、出会いも少なくなってくるしさ」
「でも、雪さんモテるんじゃ──」
「最近は、サッパリ。声掛けられる回数も若い頃に比べたら激減したし……」
「……雪さんでも落ち込むこと、あるんですね」
「深雪ちゃんてさ、時々俺のこと人間だと思ってないことあるよね?」
「そんなことないですよ!」
「言っておくけど、俺だって落ち込んだり凹んだりするし、誰かに抱き締めてほしいことだってあるんだからね」
初めて聞いた雪さんの弱音。私にだけ見せた儚い表情。──これも距離が縮まったという錯覚なのだろうか。今、確かに感じた心の距離の近さ。これも思い違いなのだろうか。
「こんな話したの、深雪ちゃんが初めてだよ」
そんな言葉投げ掛けてほしくない。だって、喜んだらまた遠ざかるんでしょ?
距離が縮まる度、距離が開く。私はどうしたらいい? もっと踏み込んだほうがいい? それとも、いっそ離れたほうがいいの? ──ねぇ、雪さん……。