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Seven
第5章 縮まる距離、開く距離
「深雪!」
着替えを済ませ、駐車場で待っている雪さんのもとへ向かっていると、ユータくんが後を追ってきた。
「私、何か忘れ物した?」
「ぷっ……第一声目がそれかよ」
「え? 違うの?」
「……忘れ物したのは、俺のほう。これ」
差し出されたのは二つ折りになっている一枚のメモ。「俺の連絡先書いてある。一人でもジム来いよ? トレーニングは続けないと、意味ないからさ」そう言って、彼は はにかんだ。
「ありがとう! またご指導お願いします」
「おう。……そのっ、待ってる……から」
「うん。またジム来るね」
「そっちじゃなくて──」
ユータくんの言葉を遮ったのは、雪さんの車のクラクションだった。ヘッドライトがこちらに向けられ、眩しい。車から雪さんが降りてきた。
「ったく、油断も隙も無い」
「アンタはいつもタイミングが悪いんだよ」
「その逆だろ? いい男っていうのは、絶妙なタイミングで現れるもんなんだよ」
「……自分でいい男とか言ってて虚しくないわけ?」
このままだと永遠にこの状況が続きそうだ。打開するため、「あの! そろそろ帰りませんか?」と雪さんに持ちかけてみた。
「そうだね。帰ろうか」
そっと腰に触れた手。さりげないエスコートに心臓が跳ねた。雪さんは、こういう行動をスマートにこなす。女性慣れしているからだと分かっていても、彼のようなエスコートを他の異性から受けることは滅多にないから、少しの気遣いでもすごく嬉しい。
開けてくれた助手席のドアから席に座り、シートベルトを自分で締めようとしたら、「俺がやるからいいよ」と雪さんの手に遮られた。距離が近い。密着状態だ。目のやり場に困っていると、瞳の奥を彼に覗き込まれた。
「あんま、フラフラすんな」
「へ?」
「……隙がありすぎんだよ」
最後の言葉は小声過ぎて全然聞き取れなかった。「聞き取れなかったので、もう一度」「何でもない」離れ際、雪さんは私から目を背けた。
ヘッドライトが照らす先で雪さんとユータくんが対峙している。何を話しているのだろう……。
「俺の部下に連絡するときは、俺を通せ」
「そんなのする必要ないでしょ。プライベートなんだから」
「ユータ」
「……もうアンタには負けない。──今度は、俺がアンタから奪うから」