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わがままな氷上の貴公子
第4章 潤

「悠斗っ。滑らないの?」
千絵の声に視線だけを向けると、隣に座ってきた。千絵も、合同練習へ出ろと言われたんだろう。
「聞いてよー。この前塔子に電話したら、潤くんが部屋にいたんだよー」
「オレに関係ないだろ?」
「だってー。ここで潤くんのこと知ってるの、悠斗だけじゃん」
あいつ。塔子の部屋にまで上がり込んでいたのか。
掠れた声で囁いて、塔子とは何回ヤるんだ?
塔子も見かけに寄らず、ヤり捲ってるのかもな……。
「あの二人、付き合ってるのかなー」
「知らない」
元々ノンケのクセに、オレを好き放題にしやがって……。
お蔭でこっちは腰を痛めたり、押しつぶされたりしたんだぞ?
どちらも軽いが、それが潤のせいだと思うと腹が立つ。
「ジム行くから……」
そう言い残して荷物を持ち、地下のトレーニングルームへ行った。
少しでも持久力を付けたいが、この時期じゃ遅いと分かっている。でもトレーニングでもして、何も考えたくない。
トレーニングルームはあちこちが鏡張りになっているせいで、実際よりも広く感じる。
休憩中なんだろう。隅のベンチに座ったシニアのヤツらが、こっちを見て何か話していた。
オレが見ると、会話をやめる。
普段話したこともないし、強化メンバーにさえ入っていないヤツら。そういう類の方が、噂話が好きそうだ。
発表会のトリを外されたのは、オレが不純異性交遊をしたせいという噂も耳に入っている。
“交遊”したのは同性だけどな。それは誰にも知られていないはず。
後は、圭太が主任コーチに取り入ったという圭太ゲイ説。
噂なんてどうでもいい。オレがトリを外されたことは事実なんだから。
一番奥に並んでいるランニングマシンを低速に設定して、ウォーキングから始めた。
毎年発表会には、母親と和子さんが来る。だから二人とも、発表会のトリがどういう意味か分かっているはずだ。
前に配られたプリントは、鞄に入れっぱなし。
特に和子さんは一緒にいる時間が長いから、トリを外されたと知れば、慰めの言葉に困るだろう。
でも、誰にも慰められたくない。可哀そうだなんて思われたくない……。

