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わがままな氷上の貴公子
第4章 潤

溜息をついてから顔を上げると、圭太と主任コーチが入って来たのが鏡越しに見えた。
楽しそうに話しながら、ベンチプレスの設定をしている。
圭太が二,三度バーベルを上げると、ヤツの腹を軽く叩いた主任コーチが出て行く。
その様子を見ていたベンチのヤツらが、ニヤニヤしながら何か話し始める。
これでまた、圭太のゲイ説に拍車がかかるかもしれないな……。
くだらない噂の発信源は、大体くだらないヤツらだ。
オレには関係ない。
髪を結び直した時、鏡の中で圭太と目が合ってしまった。少し驚いたような顔をしてから、こっちへ来る。
「あの……。望月さん……」
「何?」
「帰っちゃったんだと、思いました」
だから何だよ! オレがいつ帰ろうが、圭太には関係ないだろ?
「ちょっと、いいですか……?」
「何?」
「ここじゃ、ちょっと……」
言葉を濁す圭太に、ランニングマシンを降りてスイッチを切った。
「すいません……」
歩き出す圭太の後を追いながら、通りすがりにベンチのヤツらを睨んでやる。
それにビビったのか、会話はピタリと止まった。
階段を上がって一階へ行くと、圭太は階段の蔭へ行く。
ジッと見つめられても、どうしていいか分からない。
「俺。ずっと、望月さんみたいな演技に、憧れてたんです……」
それは前から聞いてるよ。
だから何だよ!
こんな時に、いきなり告るとは思えない。
「でも、俺には向いてないみたいだし……」
焦れったい。物事は結論から言えよ!
好きなら好き。嫌いなら嫌い。前置きが長いだけでイライラする。
「そのことで、ずっと主任コーチに相談してて……」
それが切っ掛けで、本当に主任コーチとヤったのか?
それでトリを貰ったと言われても、返す言葉はない。
「俺。ペアに、転向することにしたんです」
ペア?
一人で滑るシングルじゃなくて、男女ペアの種目か?
だからさっき、ベンチプレスだったのか……。
シングルでも上半身の筋肉は必要だが、ペアは相手をリフトする力がいる。
滑りながら相手を出来るだけ高く持ち上げたりするのは、見ていて凄いと思う。
それは、オレには無理だろう。

