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わがままな氷上の貴公子
第4章 潤

「エビちゃん。どうしたの?」
エビ……?
確か塔子の苗字は、“海老原”だったよな。
「うん。分かった。明日行くね。うん。じゃあねえ」
話しながら、ニコニコしているのにムカついた。
「塔子から?」
「うん。明日の夜、エビちゃんち行くんだ」
オレは「来るな」と言ったが、和子さんは明日、揚げたての天ぷらを食べさせようと楽しみにしている。
それを今日か明日、伝えておくよう言われてきた。
オレが食べないから、普段揚げ物を作ることはない。料理好きな和子さんにとって、潤は腕を振るえる相手だろう。
まだ誘っていないが、塔子と用があるなら仕方ない。
「あっ。発表会。トリじゃなくて残念だね。でも俺は、悠ちゃんが滑ってるとこ見られればいいから」
何でお前がそんなことを……。
千絵が言ったんだな。接点はそこくらいだろう。
慰めて優しい言葉をかければ、またヤらせてもらえるとでも思ってるのか?
冗談じゃない!
「悠ちゃん……?」
ずっと黙っているオレの顔を、覗き込んでくる。
「もう、オレに話しかけるな……」
「え……」
オレの口調に、潤のトーンが弱くなった。
潤を見ているだけで、イライラする。
オレを好きだって言ったり、家に入り浸ったり。そのクセ、電話1本で塔子の所へ行くなんて。
もしかしてこいつ、計算でやってるのか?
誰にでもいい顔をして、隙があればセックスに持ち込む。でも今までの様子を見ていると、そこまで頭がいいとは思えない。
「オレ、付き合ってるヤツ、いるから……」
つい口にしてしまった。
潤の顔が変わるのが分かる。
「男の人?」
「今のヤツ……」
潤が、圭太の降りて行った階段を見て無言になった。
圭太には悪いが、潤の中ではゲイになってもらおう。
発表会が終わればいなくなるんだし、憧れのオレの役に立てるならいいよな?
これでオレは付きまとわれなくて済むし、おまえは塔子と勝手にすればいいんだ。
平和な食卓だって戻ってくる。
無言のままの潤が、オレを見つめている。いつもみたいにボーっとじゃなくて、さすがに真剣な表情。

