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わがままな氷上の貴公子
第5章  それぞれの闘い


 タクシーに乗ると、潤は袋を詰め込んで来た。
「じゃあね。悠ちゃん……」
 付いてくる気はないらしい。
 それに安心して、運転手にドアを閉めてもらった。


 ◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆



 次の日曜日。朝早くから家に来たのは千絵と塔子。
 大会まで最後の休みの日曜なのに……。
「悠斗っ。行こうよー。チケット三枚もらってあるからー」
「何でだよっ!」
 二人が誘いに来たのは、アイスホッケーの練習試合。
 そんなものに興味はないし、今日くらい家でゆっくりしたい。
「悠斗さん。行ってらっしゃいよ。先週のお礼に」
 和子さんまで、オレを行かせようとする。
 話からすると、潤の大学が出場するようだ。
 先週の発表会に来たのは、あいつの勝手。塔子は千絵から無料チケットを貰ったし、オレは和子さんに全部渡しただけ。
 オレが誘ったわけじゃない。
 それに、あいつはどうせ補欠だろ? スケートもロクに滑れないのに、試合に出られるわけがない。
 それでも和子さんにも後押しされ、オレは仕方なく試合会場へ向かった。
 タクシーじゃなきゃ行かないと言い張り、会場の前へ乗り付ける。
 電車に乗って、ファンに気付かれたらどうするんだよ。千絵だって、フィギュアファンには顔を知られている。
 溜息をついてから、持って来たマスクをして会場へ入った。
 リンクが狭い。クラブの二階より、狭いように感じた。その周りは、透明な壁で囲まれている。
 両端には、小さなゴール。あんなに小さいなら、潤が座っているだけで守れるかもしれない。
 一番前の指定席へ座っていると、でかいヤツらがユニフォームの下に防具を付けて出てきた。手にはスティック。
 防具のせいで、でかいヤツらがよりでかく見える。
 会場全体からの、歓声にも驚いた。それは、試合が始まっても途切れることはない。
 フィギュアなら、集中出来ないだろう。
 千絵と塔子も、「行けー!」とか「やれー!」と声を上げている。
 付いて行かれない世界だ……。
 これなら、練習に出た方がマシ。
 ホイッスルが鳴り響き、ゴール前での乱闘が止められる。
 オレからすれば、始まってから全てが乱闘だが。
 何か注意を受けたキーパーがリンクから出て行くと、代わりのヤツが入ってくる。


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