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わがままな氷上の貴公子
第5章 それぞれの闘い

どいつも防具のマスクをしてて、誰が誰だか分かってるのか?
「あっ! 潤くん!」
千絵が、出てきた男を指差す。
「どこで見分けるんだ?」
「背番号がそうだから」
塔子に言われて見てみると、確かに少しモタついている。
でも暫く見ないうちに、スケートは少し上達したらしい。転ばずにゴールの前へ立った。
「潤くーん!!」
「頑張れー!!」
塔子と千絵に気付いたのか、キーパーの潤が両手を振っている。
中央では、もう乱闘のような試合が始まっているのに。
やっぱり馬鹿だ。あいつ……。
そのうちに攻められ、潤のいるゴールへパックが飛んでいく。転ぶように倒れ、何とかゴールは喰い止めたようだ。
その代わり、立ち上がるのが遅い。味方のお蔭でパックは中央へ戻ったが、あんなトロいヤツを試合に出すなんて。
前に聞いた、でかいから何とかなると言った先輩同様、監督も無茶だ……。
少しすると潤が下がり、まともに滑れるキーパーと交代した。
もう耳が痛い。
フィギュアの拍手や歓声とは、あまりにも違いすぎる。
客席に男が多いせいだろう。「ウォー」という歓声の中、溜息をつくしかなかった。
◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆
「悠ちゃん! オレ出たの、分かった?」
「大丈夫。私達が教えたからー」
千絵が偉そうに言う。
練習試合だから、現地解散だそうだ。
潤はクラブでのような大きな鞄を持っていたが、その中にあの防具なんかが入っていたのか。以前エレベーターの中で、硬い荷物だとは思っていたが。
「じゃあな」
帰ろうとすると、千絵に腕を掴まれた。
「悠斗っ。ご飯行こうよー」
「はあ?」
オレは和子さんに後押しされて、仕方なく見に来てやったんだ。
これ以上付き合う義理はない。
「あっ。悠斗んち行こうよー。和子さんが、何か作ってくれるでしょ?」
千絵は子供の頃ウチに来ていたから、内部事情は知られている。
「悠ちゃんち、行っていいの……?」
「いいの、いいの。行こっ」
千絵はすぐ和子さんに電話をして、了承を得てしまった。
和子さんなら、喜ぶよな……。
食べる人数が多いほど、料理の作り甲斐があると聞いたことがある。
潤のでかい荷物はトランクに入れてもらい、タクシーでウチへ向かった。

