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わがままな氷上の貴公子
第1章 変なヤツ

ポスターの写真は、前季の大会中に撮られたもの。事務の方で、いい写真を選んでくれる。
ステップシークエンスで振り向き、髪が軽く顔にかかっているもの。表情もよくて、自分でも気に入っていた。
大概の選手は髪を固めたりするが、オレは優雅さのためにわざとそうしない。
「望月さん、今年も絶対大トリですよね。プログラム、弄らないんですか?」
「基本そのままでレベルダウンする。新しいのは、シリーズに合わせるから」
発表会に採点はなく、ただの祭り。オレのファンも来るが、たかが発表会のために、一々全力を出していられない。
オレや千絵は、まずグランプリシリーズに焦点を合わせている。出なくていいなら、発表会なんて出たくない。でもコーチに頼まれたから、仕方なくというところ。
「どうしたら望月さんみたいに、優雅に滑れるのかなあ」
小さな溜息を聞いて、前季の圭太の滑りを思い出した。
演技自体は良かったと思う。でも使用曲がハチュトゥリアンの“剣の舞(つるぎのまい)”なんだから、優雅は無理だろ?
圭太は圭太なりの、強さをアピールする滑りが合っている。その路線で行けば、まずまずの所まで行けるだろう。テクニックもある。
でもオレには、見かけからも美しい優雅さが似合う。
それなりの滑り方があるもんだ。
相手は男でもセックスを知った直後から、以前より表情が良くなったとコーチにも言われた。
確かに悦楽に酔うことを知ると、必要な場面で演技にも艶が増される。後からVTRを確認して、そう感じた。
「今度、教えてくださいよお」
お前は、今のままでいいんだよ……。
言ってやりたかったが、黙っておく。
コーチに呼ばれ、圭太はオレに頭を下げてからそっちへ行った。
滑り出すと、リンクサイドからの視線を感じる。
見ると、ジャージを来たでかいヤツと目が合った。
この前、シャワールームで会ったヤツだ。
何であいつがここにいるんだ?
どう見たって、フィギュアの選手じゃないだろ?
ジャージを着ていても、シャワールームで見たままのガタイ。目尻が下がり気味のせいか、トロそうな感じがする。
ゆっくり近付いてみると、そいつは嬉しそうにニッコリと笑った。

