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わがままな氷上の貴公子
第1章  変なヤツ


「何か用?」
「金曜に会ったよね。シャワールームで。さっき乗ったエレベーターが、四階で止まったから」
 顔に似合うトロイ口調でニコニコされると、馬鹿にされているようで腹が立つ。
「だから、何か用?」
 考えるように瞳を動かしてから、そいつはまた笑顔になってオレを見た。
「綺麗だなあって、思ったから」
 正直でよろしい。
 やっぱりゲイだったのか。
 でも、こんな場所で言う台詞じゃないだろ?
 近くに誰もいないから、正直さに免じて許してやるが。
「それって、口説いてんの?」
 また少し考えるような表情を見せてから、すぐ笑顔に戻る。
 オレの話、聞いてんのか!?
 大学の教育学部の一年で、アイスホッケー部に入ったばかり。月、水、金曜日に二階のリンクで練習をしていると話す間もずっと笑顔。
 仕方なく、オレはフェンスに寄りかかって聞いてやっていた。
 動いてないと、リンクって寒いんだよ。アイスホッケーやってるなら、お前だって知ってるよな?
「サボってていいのかよ」
「あっ。もう、戻らないと。休憩時間だったんだあ」
 壁の時計を見て言うが、慌てる様子はない。
「戻れば?」
「じゃあね」と言ったから、オレはフェンスから体を離した。
「あっ!!」
 でかい声に転びそうになり、慌ててバーを掴む。
 オレがリンクでコケるなんて、シャレにならないぞ!?
「名前、教えてよ。俺、上小園潤(かみこぞのじゅん)」
 期待している顔で見られ、体勢を立て直した。
 オレを知らなくて、会いに来たのか?
 フィギュアファンじゃなくても、オレの写真を見れば“スケートで有名な人”くらい誰でも知ってるぞ?
 シャワールームでの時だって、あの“望月悠斗”に会えた驚きもあったのかと思っていた。
「望月、悠斗……」
「高校生?」
「高一」
 嬉しそうに笑っている。
「悠ちゃんか。またね」
「またって、おいっ!」
 “悠ちゃん”だあ!?
 “悠様(ゆうさま)”って呼ぶファンもいるんだぞ?
 気付いた時に潤はもうエレベーターの方にいて、バーを掴んだまま呆気に取られていた。


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