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わがままな氷上の貴公子
第1章  変なヤツ



 五階で個人練習を数時間やった後、またコーチに四階へ行くように言われてしまう。
 オレには、発表会なんて眼中にないのに。
 クラブの繁栄のために、発表会が必要なのは分かる。そこにオレが出れば、客寄せになることも。
 通常の大会でオレを観るには、最低でも数万の入場料。海外の大会まで追いかけてくるファンは、旅費も必要だ。
 オレが出るような大会は日本でもあるが、プレミアが付くプラチナチケットになる。
 それだけ価値のあるオレが出るから、発表会のチケットも発売直後にすぐ完売。チケットが手に入らなかったファンは、一目でもオレを見ようとクラブの周りへ集まる。
 当日は警備員の数も多い。選手のみ敷地内でタクシーに乗れるように配慮されていて、見えたとしても遠目だろう。
 あくまでも、オレの目標はオリンピック。
 去年の世界大会で四位になったから、オリンピックへのシード権はある。でもそれは確定じゃなく、シード権を持つ選手はオリンピック出場枠より多い。オリンピックを確定させるには、まずグランプリシリーズからグランプリファイナルへと進む必要もあった。
 日本男子は既にオリンピック出場の二枠を獲っているが、国内№1と言われる本堂(ほんどう)という20歳の選手がいる。
 悔しいが、オレも本堂の実力は認めていた。
 あいつなら、オリンピック枠を獲るだろう。
 本堂が決まりなら、あと一枠。そこを狙いに行ける中で、オレは現在一,二を争う状態。全員がライバルだ。
 普段は仲良く話していているヤツらも、内心では同じ考えだろう。
 グランプリシリーズは、アメリカ、カナダ、中国、フランス、ロシア、日本で開催され、各選手2大会に出場する。だから、出来るだけ強い選手と重なりたくないのが心情というもの。
 優勝すると15ポイント。二位が13ポイント、三位が11ポイント。以下9、7、5、3、1と八位までポイントが付く。
 その合計の高い男女六人ずつが、ファイナルへの進出。
 でも下半分は、悪いがオリンピック圏外と言ってもいい。出来るだけポイントを獲り、上位三位以内には入りたい。
 出来れば、本堂に迫るくらいの位置に。


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