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わがままな氷上の貴公子
第8章 本当の闘い

「今のままの構成でも完璧に熟せば、オリンピックは狙えるから」
「はい……」
そう答えるしかない。
年齢制限が外れ、やっと巡ってきたチャンス。
オレだって、焦っていた。
今季を逃せば、次は4年後。
今回が駄目だったら、スケートは辞める覚悟。
“美少年フィギュアスケーター”として注目されたのは、中学生の時。
熱烈なファンでさえ、オレの容姿しか見ていない。それもあり、無様な滑りはしたくないと思っていた。
転倒するなんて恥ずかしい。
そう考え、無難な演技構成で満足していた。
でも、もうそれじゃ通用しない。
回転不足を取られても、美しい着地をすればいい。転倒したら、他でカバーすればいい。
一番無様なのは、負けることだ。
体裁を取り繕ろうとしている場合じゃない。
それが分かったのは、潤のお蔭でもある。
スケートが滑れなかったのに、少しだが練習試合に出られるようになった。何度オレが怒鳴っても、傍にいることをやめない。
不器用な囁き……。
そんな潤の行動に、オレの心は動かされてしまった。
全てが、あいつなりの努力なんだ。
今回のファイナルは、幸運なことに日本開催。
割り当てのチケットがあるから、潤や和子さんも観に来られる。
そんな前で、負けたくはない。
「望月。今日は取り敢えず、今までのプログラムで滑ろう」
「はい」
決意を新たに、リンクへ降りた。

