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わがままな氷上の貴公子
第8章  本当の闘い


 ◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆


 疲れた……。
 滑ることは好きだし、厳しい練習にも慣れているはずなのに。
 精神的な問題だろう。
 もしもシリーズを二位で終えていたら、こんなに悩まなかったかもしれない。
 でも、結果は結果。
 悔やんだって、何も変わらない。
 今日は結局、今まで通りの構成でしか練習させてもらえなかった。
 いきなり張り切って、ケガを避(さ)けるためだとは分かっている。
 それでも、納得がいかなかった。
「あっ。悠斗……」
 エントランスで、後ろからきた千絵に肩を叩かれる。
 シャワーを浴びた後だろう。練習中はまとめている髪を、今は降ろしたまま。
「調子、どう?」
「お前は?」
 千絵は、女子の二位でファイナル出場。
 出場出来なくて、八つ当たりされるよりいいけどな。
「んー。イマイチかな……。スランプって感じ……」
 選手はみんなファイナルを目指すが、いざ決定となるとそんなもんだ。
 オレだって、内心は悩んでいる。
「学校も行けなしいさぁ……。ストレス発散する場所がないじゃん?」
 シーズン中は、学校なんて通う時間もない。休憩は取るが、朝から晩まで練習漬けだ。
「あっ。悠斗んち行こうかな……」
「はあ?」
「だって。家族とコーチ以外と、中々話せないでしょ。潤くんいるかもしれないし……」
 多分いるよ……。
 ウチは、あいつ専用のホテルだからな。
 でも千絵がいた方が、押し倒されなくて済むかもしれない。あいつの話し相手にもなるだろうし。
「来るか?」
「ホントに、いいの?」
「ああ」
 すぐ和子さんに電話して、千絵の食事も頼んだ。
 思った通り潤もいて、電話の後ろで「悠ちゃんから!?」と騒いでいた。
 こんなにウチに来てて、大学は大丈夫なのか?
 潤に代わると言われたが、もう帰るからと通話を切った。
 声がでかいから、全部聞こえてるよ……。
 15分もしたら戻るから、大人しく“伏せ”でもして待ってろ。
 タクシーの中で、千絵は元気がなかった。
 プレッシャー。
 今までの大会だってプレッシャーはあったが、次は別格だ。
 今後のスケート人生を、左右しかねない。
 オレも千絵も、今までファイナルへ進んでも、オリンピックとは関係がなかった。



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