この作品は18歳未満閲覧禁止です

- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
わがままな氷上の貴公子
第8章 本当の闘い

◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆
疲れた……。
滑ることは好きだし、厳しい練習にも慣れているはずなのに。
精神的な問題だろう。
もしもシリーズを二位で終えていたら、こんなに悩まなかったかもしれない。
でも、結果は結果。
悔やんだって、何も変わらない。
今日は結局、今まで通りの構成でしか練習させてもらえなかった。
いきなり張り切って、ケガを避(さ)けるためだとは分かっている。
それでも、納得がいかなかった。
「あっ。悠斗……」
エントランスで、後ろからきた千絵に肩を叩かれる。
シャワーを浴びた後だろう。練習中はまとめている髪を、今は降ろしたまま。
「調子、どう?」
「お前は?」
千絵は、女子の二位でファイナル出場。
出場出来なくて、八つ当たりされるよりいいけどな。
「んー。イマイチかな……。スランプって感じ……」
選手はみんなファイナルを目指すが、いざ決定となるとそんなもんだ。
オレだって、内心は悩んでいる。
「学校も行けなしいさぁ……。ストレス発散する場所がないじゃん?」
シーズン中は、学校なんて通う時間もない。休憩は取るが、朝から晩まで練習漬けだ。
「あっ。悠斗んち行こうかな……」
「はあ?」
「だって。家族とコーチ以外と、中々話せないでしょ。潤くんいるかもしれないし……」
多分いるよ……。
ウチは、あいつ専用のホテルだからな。
でも千絵がいた方が、押し倒されなくて済むかもしれない。あいつの話し相手にもなるだろうし。
「来るか?」
「ホントに、いいの?」
「ああ」
すぐ和子さんに電話して、千絵の食事も頼んだ。
思った通り潤もいて、電話の後ろで「悠ちゃんから!?」と騒いでいた。
こんなにウチに来てて、大学は大丈夫なのか?
潤に代わると言われたが、もう帰るからと通話を切った。
声がでかいから、全部聞こえてるよ……。
15分もしたら戻るから、大人しく“伏せ”でもして待ってろ。
タクシーの中で、千絵は元気がなかった。
プレッシャー。
今までの大会だってプレッシャーはあったが、次は別格だ。
今後のスケート人生を、左右しかねない。
オレも千絵も、今までファイナルへ進んでも、オリンピックとは関係がなかった。

