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わがままな氷上の貴公子
第8章  本当の闘い


 元々住み込みだった和子さんの部屋は、一階の奥。和子さんの私物以外は、そのままになっている。オレが病気になった時などに泊れるよう、元々家具類は備え付け。
「そうしようかなぁ……」
 千絵の気持ちも分かる。
 少しでも違う環境に身を置いた方が、楽になれるだろう。
「悠斗。いい……?」
 そんな訊き方も、千絵らしくない。
 以前だったら、「泊まるからねっ」と明るく笑うはずなのに。
「ああ」
 千絵が泊るなら、二階のゲストルームだ。
「じゃあ俺は、悠ちゃんと寝るねえ」
 そうだ。こいつがいたんだ……。
 もう溜息も出ない。
 理由があるなら、仕方ないだろう。
 千絵は早速自分の家へ電話をしている。和子さんとも代わり、安心するようにと言っていた。
「パジャマは、悠斗さんのでいいですよね? 大きいと思いますけど」
 千絵はオレより10cm以上小さいが、袖や裾をまくれば何とかなるだろう。
 こんな時だから、貸してやるよ。
「何かあれば、声をかけてくださいね」
 そう言って、和子さんは部屋へ行ってしまう。
 潤に先に風呂へ入るように言い、千絵と二枚目のDVDを観ていた。
 オレが十歳の時のもの。
 大会で、2アクセルと2トウループの連続をしていた。
 この頃は転倒も恐れず、覚えたてのぎごちない技を披露出来てたのに……。
「悠斗……」
 千絵がいきなりしがみついてくる。
「え……」
 言葉が出ない。
 オレは動けないまま、呆然としていた。


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