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わがままな氷上の貴公子
第8章 本当の闘い

海外コーチを勧められたこともあるが、言語が同じ方が分かり合えるからと日本人にした。通訳を挟むと、細かいニュアンスが伝わらない。
オレの性格からして、イライラするだろう。
こっちが、その国の言語を勉強する時間なんて取れないし。
そんな時間があるなら、練習に回した方がいい。
合わないコーチなら替えればいいが、この時期になっての急な交代は精神的にも響く。
ファイナルまで二週間。
オリンピックが決まれば交代も可能だが、指導の仕方に戸惑うかもしれない。でも精神的に落ちたまま大会に出れば、余計に緊張してしまう。
体を離した千絵は、俯いたまま。
「ごめん……。潤くん、来たよね。勘違い、されちゃったかな……」
深い意味で言ったんじゃないだろう。男女だから、付き合っていると誤解されたらという意味。
普通なら、そうだよな……。
「お風呂入って、寝るね……」
「ああ……。オレは部屋で入るから。ゆっくり入れよ……」
「ありがとう……」
千絵が見えなくなってから、オレは部屋へ行った。
「悠ちゃん……」
ベッドに座った潤の、複雑そうな表情。
「千絵とは、何でもないからな……」
こいつに細かいことを説明しても、分からないだろう。それに、千絵の悩みを勝手に話したくなかった。
「風呂入ってくる……」
着替えを持って、風呂へ行く。
潤はオレと千絵の様子を見て、どう思っただろう。
オレは潤が塔子の家に通ってるのを知っただけで、嫌な気持ちだったから……。
普段はシャワーだけでいいが、練習の疲れを取るためにゆっくり湯船に浸かる。
確か、千絵のコーチは佐々木(ささき)だったな。見た目は優しそうで、過去の実績もあるのに……。
オレだったら練習をやめ、ファイナルも辞退するかもしれない。
パジャマに着替えて部屋へ戻ると、潤はまだベッドに座ったまま。
「悠ちゃん……」
少しだけ間を空けて、隣に座ってやった。
「千絵は、悩んでるだけだよ。オレ達にとって、ファイナルは大事な大会だから……」
それくらいは言ってもいいだろう。

